最初は乗り気になれなかった武道館のワンマン公演
そんな“街の素敵なお菓子屋さん”のあっちゃん率いるニューロティカが、4000人を超える観客で埋め尽くされた日本武道館で初ワンマンライブをおこなったのは、2022年1月3日のことだった。
自虐的に“史上最遅”を謳っていたとおり、結成38年目のバンドが日本武道館で初ライブを行うのは、それまでの記録を大幅に塗り替える記録だった。
「武道館の話が持ち上がったとき、僕は『無理だろう』と思ったんです。もしチケットが売れなかったら、経済的に大きな負担をかぶるわけですし。でも、ちょうどコロナで士気が下がっていた時期だったこともあって、僕以外のメンバーは目標が見つかったことに喜び、『やろうやろう!』と盛り上がったんです。
だったらもう、やるしかないなと。
借金を背負ったとしても、僕は独りもんだし、まあいいやと思って。
でも、武道館のチケットがまだ1000枚くらいしか売れていない時点で、武道館の次は何をやるかという話が持ち上がり、イベンターは『じゃあ、野音(日比谷野外音楽堂)をやりましょうよ』と言うんです。僕は『まだ武道館のチケットも売れてないのに、バカじゃないの!?』と思ったんですが、メンバーは『よっしゃー!』って(笑)」
しかし結果的に、1月の初の武道館、そしてニューロティカとしては31年ぶりとなる7月の日比谷野外音楽堂ともに、チケットはソールドアウトの大盛況。ここに来て、あのインディーズブーム〜バンドブームの頃に匹敵するか、もしくはそれ以上の盛り上がりが、ニューロティカのまわりで起きているようにも見える。
「結果的に武道館が大成功だったことは、むしろこちらがびっくりです(笑)。そして、これが武道館効果というのか、取材も増えたし、その後のライブの動員も増えました」
現在のニューロティカは、1990年代末から交流のあったPOTSHOTらメロコア・スカコア系バンドから学んだ、限られたメンバーで組織を作り、流通以外のバンド運営にまつわるすべてのことをほぼ自分たちのみでおこなう“純・インディーズ体制”で活動をしている。
藤屋を会社として登記し、当初はメンバー4人が社員となった。その後も流動的だったギター以外の3人はずっと社員で、給料制でやってきたという。
しかしコロナ禍がはじまってからはバンド活動の自粛を余儀なくされ、ドラムのNABOはタクシー会社の正社員となるため退社という形を取り、現在はあっちゃんとベースのKATARU二人だけの会社になっているという。
形式上は社員ではなくなったNABOもバンドメンバーであることは変わりないので、バンドにまつわる仕事は担当し続けている。
KATARUはバンドTシャツのデザインなどアパレル系全般、NABOは映像編集が得意なので、ミュージックビデオの編集やDVDジャケットのデザイン、それにホームページ制作などを担当している。そして社長のあっちゃんは、バンドにまつわる営業を一手に引き受けるという役割分担になっている。
「NABOちゃんは、タクシーの中で武道館のドラム練習してたって言いますし、もうメンバーに対しては尊敬しかないですね。みんな、すごいんですよ。
KATARUもNABOも絶対にずっと音楽で食っていこう思っている人たちで、楽器もろくに弾けない僕とは覚悟が違います。2020年から正式メンバーになったギターのRYOも、ギターの学校の先生ですから、僕以外の3人は音楽に対する気合いが違うんですよ。だから彼らのためにも、武道館は本当にやって良かったと思います」