女子高生サーリャの目を通して描く、日本のクルド人難民の現実『マイスモールランド』【川和田恵真監督×嵐莉菜さんインタビュー】_j

──今、クルド料理のお話が出てきましたが、映画に登場するメニュー全部がおいしそうで、たまりませんでした。

川和田「クルドの方に撮影現場に来ていただいて、全ての料理を作っていただいたんですけど、それは私が取材でお家にお邪魔した時に食べた献立なんです。煮込み料理だったり、スープだったり、本当においしくて。サーリャが聡太の家に行ったときに作るキョフテというスパイスを練り込んだ俵状のハンバーグみたいな料理は、本当においしくて。これらのシーンは、サーリャの一家が日本に長年住んでいてもクルドの食文化を守っているということを表しています。日本の食材を取り入れて作ることで、その融合を表す場面にしたいと考えました」

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「撮影に出てきたお料理は本当にすごくおいしかった。なんで、こんなに美味しい料理を知らなかったんだろうと思ったくらい」

川和田「結構、スパイシーなメニューもあるんですけど、莉菜さんの舌にはちょうど良かったのかも。慣れていない人には辛いものもあるかも。煮込みは辛くないですよ」

「この作品の撮影前にお家にお邪魔した時、撮影にはで来なかった献立があって、今でも食べたくなります(笑)。取材では必ずクルド料理の話になるんですけど、その度に、食べたいって思い出してしまいます(笑)」

なぜ、クルド人たちが分断されたのか、当事者でしかわからないこと。

女子高生サーリャの目を通して描く、日本のクルド人難民の現実『マイスモールランド』【川和田恵真監督×嵐莉菜さんインタビュー】_k
サーリャはコンビニエンスのアルバイトで、店長の甥である聡太(奥平大兼)と親しくなり、 悩みなどを少しづつ、打ち明けるようになる。

──先日、サーリャの友人の聡太役を演じた奥平大兼さんに取材させていただいたとき、聡太はクルド人のことも難民のこともよくわかっていない高校生なので、無駄に予備知識を入れないようにあえて調べずに撮影に入ったと聞きましたが、一方、「莉菜さんはすごく調べていた」と話をされていました。

「もちろん民族の歴史などは調べたんですけど、やっぱり実際にご家族に会ったときに、当事者でしかわからないことを聞き、メモを取らせてもらいました。お話を聞いたとき、しっくりきたのは、なぜ、クルドの人が住んでいた場所が分断されたかというと、豊かな場所だったから奪われてしまった一面もあると。それは私が調べた時には出てこなかったことなので、びっくりしました」

──嵐さんが演じる上で最も苦労した点は?

「語学です。サーリャはクルド語は話せず、トルコ語のみ話せるという設定だったのですが、これまでトルコ語を全く話す機会がなかったので習得が大変でした。ただ、私の父親が高校の3年間、トルコに住んでいたことがあって、トルコ語を話せたんですね。撮影中、空き時間はトルコ語の先生のリスニングをずっと聞いていたんですけど、発音チェックは父にお願いしたので、本番でNGはなかったです」

川和田「それは本当に素晴らしくて、本番中、莉菜さんの間違いで止まるってことは一度もなかった。トルコ語の先生にも現場にずっといてもらったし、莉菜さんのお父さんも先生となり、限られた時間の中で台詞を完璧に覚えてくれてありがたかったです」

家族全員で、オーディションにチャレンジ。家族だからこそ出せた、リアルな感情。

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難民申請が却下されたことで、サーリャの家族には数々の試練が。 その様子をじっと見守る聡太。
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サーリャの家族を演じるのは、それぞれオーディションを受けて合格した嵐さんのご家族。息の合った会話が展開する。

──川和田監督は、サーリャの家族役のオーディションに、莉菜さんの家族が次々と現れたときに、内心『やった!』って思いませんでしたか? 結果、莉菜さんのお父さんだけでなく、実際の妹さん、弟さんも起用され、家族出演が叶いました。

川和田「莉菜さんが主役に決まった上で、こちらから、ご家族に『サーリャの家族役のオーディションがあります』と声はかけたのですが、正直、本物の家族で物語の家族を演じることはちょっと難しいのかなって思っていたんです。お父様は最初会ったとき、かなり堅めの印象があったのですが、オーディションでサーリャとお父さん役との候補の方たちとの組み合わせの中、莉菜さんのお父さんとの演技で、莉菜さんからかなり引き出されるものがあったので、『もう、これは決まりだな』と思いました。さらにご兄弟のお芝居を観させていただいたら、すごく魅力的だったので、これは家族と一緒にチャレンジしていきたいなとなりました」

「でも、父はオーディションから帰ってきたとき、自信なさげだったんです(笑)。私は、自分でいうのもなんですけど、父と演技した時すごく雰囲気が良くて、これは勝手な勘だけど、合格できそうだと思っていたんです。最終的には妹も弟も役に決まって、家族で映画なんて、こんなの滅多にない機会で、誰もが経験できないことだから喜びました。父も『こんなのハリウッドの大物俳優じゃないとできないことだ』とすごく驚いていましたね」

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難民申請が不認定となり在留カードが無効になってしまうサーリャの家族。これにより、数々の制約を受けることになる。

──ご家族全員演技は初めてなのに、素晴らしい表現をされていますよね。特にお父さんは、難民申請が却下されて以降の追い詰められ方がリアルで、サーリャに、聡太と会うなとぶつかり合う場面なんて芝居じゃないぐらいの軋轢が生まれていました。

川和田「そうですね。お父さん、どんどん良くなっていって。映画を観てくれた方も『お父さんが良かった!』と強く言ってくださる方が多くて。お父さんをプロの俳優だと思って見ていたという感想をもらったこともあります」