ネット社会に乗り遅れ、NHKの業務拡大を阻止しようとする新聞協会に現場記者は…

ただ、現場の新聞記者からは、新聞協会の姿勢に疑問を抱くものも。

「NHKといえども、地方のニュースでは地元紙の取材力に及ばない。
新聞協会は、NHKのネット業務拡大によって『地方紙のデジタル収入への影響は甚大だ』と主張しているが、地方紙のデジタル収入はもともと厳しい。
NHKがネットでの文字ニュースをやめたところで、高齢化が進む地方では、お金を払ってネットで地元ニュースを読もうという人は少なく、地方紙のデジタルの購読者は増えない」(中部地方の某地方紙記者)

また、全国紙のベテラン記者は「NHKがネット報道を拡大すれば、情報にアクセスしやすくなるのは国民。新聞が反発し続けても、自分たちで十分な努力をせず、自分たちの会社を守りたいだけにしか見えない」と辛らつだ。
この記者は、入社してからの約20年を振り返ってこう話す。

「若手のときは、記者たちは皆、経費節減など気にせず、タクシーやハイヤーを使いまくっていた。
2000年代以降、インターネットが広がりを見せても、記者上がりの経営陣はネット社会で新聞がどう生き残っていくかの戦略を十分に立てられず、新聞業界が斜陽産業となるのを止められなかった。
その結果として現在の厳しい経営状況があるのに、新聞社の幹部が中心の新聞協会は、NHKの業務拡大を阻止することで、生き延びようとしている」

日本新聞協会が入る日本プレスセンタービル
日本新聞協会が入る日本プレスセンタービル
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一方、NHKの記者は、一連の議論をどう感じているのか。
東京で勤務する中堅記者はこうぼやく。

「NHKも給与体系の見直しや人員削減を進めているし、放送用だけでなくネット用の原稿も求められるので、ネットの仕事がない時代に比べ、負担感は倍以上に増えている」

そのうえで冷ややかにつけ加える。

「新聞協会は、NHKのネット業務拡大で新聞社が立ちゆかなくなると『言論の多様性が損なわれかねない』と言うが、NHKの言論・報道の場を制限しようとしている現状と矛盾している。ジャーナリズムを担う立場同士で批判し合っている場合ではないのでは」

NHKのネット業務の位置づけをめぐる議論は大詰めを迎えている。総務省のワーキンググループは、8月中にもとりまとめ案を出す見込みだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班