なぜ岸田首相は韓国で評価の声が上がったのか
韓国の政界で土下座は反省の気持ちを効果的、効率的にアピールできる手段で、「これからは国民に尽くす」という覚悟や決意が込められているように思える。
22年12月19日に日本記者クラブで峨山政策研究院の崔恩美研究委員が紹介した論文によれば、日本では1回謝れば終わりと考えるが、韓国では「相手がもう言わなくていいというまで謝罪を続けるべきだ」と考えるという。
だからこそ司法の問題はお互いの考え方の違いを踏まえ、相手の受け止め方も考慮しながら一緒に解決策を探す必要があると訴えた。
韓国人が好んで使う言葉に「真正性(チンジョンソン)」がある。日本では聞き慣れないが、「真心」「誠実さ」「本気度」などと訳される。歴史認識問題をめぐり韓国側が日本に反省や謝罪を求める際、枕ことばに「真の」とか「心のこもった」を付けることが多いのは、その後の行動まで制約する意味合いがある。謝罪ひとつとっても日韓では考え方や作法が違う。
それが日韓のさまざまな合意後の「すれ違い」につながっている。G7広島サミットに合わせて日韓首脳が韓国人原爆犠牲者慰霊碑を一緒に訪れて頭を下げたのが韓国で革新系メディアも含めて評価されたのは、首相の岸田が韓国人に対する言葉を行動で示したと受けとめられたからだ。
怒りを「目に見える」形で示す
剃髪(ていはつ)と断食も韓国では意思表示の手段として用いられ、政治の中心地、汝矣島(ヨイド)でもたびたび見かける。
19年9月、当時の大統領、文在寅が、様々な疑惑が指摘されていた曺国の法相任命を強行すると、それに抗議するため、元首相で保守系最大野党代表の黄教安(ファン・ギョアン)がバリカンで髪を丸刈りにした。同じ党の女性議員もやはり丸刈り姿になった。このケースでは「怒り」を目に見える形で示したわけだ。これも「動の政治」の一例だ。
黄は丸刈りから2カ月後の11月下旬、文政権による日韓GSOMIAの破棄表明などに抗議し、今度は無期限のハンガーストライキに突入した。
韓国の厳しい寒さの中で大統領府近くの広場に座り込み、夜はテントを張って「死を覚悟する」と意気込んだ。結局、断食開始から8日目の夜に意識を失って病院に搬送され、その2日後に断食終了を表明した。
土下座、丸刈り、断食はいずれも日本政界では、まず見られない。
日本社会はむしろ喜怒哀楽の感情を顔に出さないのが美徳とされてきた文化の違いがあり、それは政界にもあてはまる。日本人からすると、仰々しく冷めた目で見られそうな政治パフォーマンスも、韓国では意外にも支持者にそれなりに受け入れられてきた土壌がある。
しかし、未曽有の醜聞合戦に陥った前回の大統領選では、候補者本人はおろか、妻までも国民に頭を下げる姿が何度もテレビに映しだされたことで国民の間であきれた声が広がり、土下座や謝罪の効果はほとんど見られなかった。
文/峯岸 博 写真/shutterstock
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