日本の「財政再建」は信用を維持し続けられるのか? 防衛費の増強など「蟻の一穴」になりかねない歳出拡大の政治的誘惑
世界中でインフレが日常化する中、日本では給与所得は上がらず、国民は「インフレ課税」に苦しんでいる。インフレにより、税収が増えているのも事実だが、一方で防衛費の増強など、財政再建については、かなりきな臭い動きがあることも事実だ。はたして日本の「財政再建」はいつまで信用を維持し続けられるのか?元日銀で第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の『インフレ課税と闘う!』より一部を抜粋、編集してお届けする。
インフレ課税と闘う!#3
防衛費だけを増やして国家を守れるのか?
しかし、防衛費だけを増やして国家を守れるのだろうか。ウクライナの教訓は、経済規模が小さい国でもサイバー攻撃に立ち向かうことが可能であることや、ドローン活用が戦争のあり方を変えたということだ。米国から高価な戦闘機や攻撃用ミサイルを購入しても、新しい形態の戦争への防御力が高まるとは思えない。
ロシアがウクライナに仕掛けたのは、原発を攻撃したり、電力供給を寸断して国民を不安に陥れる作戦だった。日本の原発は、北朝鮮の攻撃にさらされたときに大丈夫なのか。防衛の専門家ではなくても、防衛費を倍にしたからと言って安心かどうかには強い疑問を抱く。
今にして思えば、2025年度の財政健全化目標を明記しなかったことは大きな転換への布石だったと感じられる。こうした布石は、しばしば「蟻の一穴」と呼ばれる。どんな鉄壁のダムでも、それが崩壊するときは、小さな針穴が開いて、その穴が大きくなって崩壊に至る。財政健全化を明記しないことは、財政運用の信用を崩す「蟻の一穴」になりかねない。
防衛費が「蟻の一穴」であれば、それに続くのは子ども予算の倍増、グリーントランスフォーメーション(GX)予算あたりか。数年度にわたって計画される大型予算にとって、2025年度の財政健全化の目標は邪魔な存在なのだ。そうした歳出拡大の政治的誘惑は、日本の信用維持に対して脅威になる。
文/熊野英生 写真/shutterstock
#1「日本に国家破綻はない」は本当か? 「今回は違います」と言われながらも国家破綻が繰り返しやってくる理由
#2 日本の国債は本当に安全なのか? 銀行の立場から考える教科書どおりともいえる「財政不安のメカニズム」
#4 気づかぬうちに円資産の価値がどんどん減価している! 日本国民はほぼ不可避、本当に怖い「インフレ課税」
2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?
コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!
30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。
これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。
昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。
しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
個人の防衛手段として外貨投資や、副業のすすめなど、具体的な対処法や、価値観の切り替えなども指南する、著者渾身の一冊!