原稿を見て鳥肌がたった瞬間

――野原さんとのお仕事はこちらの『さいごの恋』が3作目とのことですが、編集者として野原作品の「すごい」と思われるところは?

普段の野原さんは、穏やかで優しいお人柄なんです。プロットをきちんと作ってくださるし、雑談を交わしながらの打ち合わせは、私にとっても楽しい時間です。

これまでどんなに他のお仕事でお忙しくなさっていても締め切りに遅れたことはありません。そして、届いた原稿を見て思わず鳥肌が立ってしまう瞬間が頻繁にあるんですよ。

――たとえば?

『妻が口をきいてくれません』でいえば、クライマックスで夫が妻に「オレが悪かった」と叫ぶ場面。

こんなページの使い方なんてまったく聞いていません!!と驚きながら、興奮しました。あのいつもにこやかで穏やかな野原さんが、こんなに凄みのあるものを描いてくるのか!と。

プロット通りじゃなく、ご本人すらも想定外の何かが降りてきた!みたいなとき、作品に深みと凄みが加わるんですね。
そこが最大の「すごさ」です。

――カバーの背表紙にも驚かれたとのことですが?

そうなんです! 背表紙にコップに4本歯ブラシが立ててある小さなイラストがあるんですけど、1本だけ離して描いてるんです。これ、絶対に夫の歯ブラシですよね。

妻の独白の「歯磨きの音が嫌い」という1行がこのイラストに繋がるのか!と、気づいたときはまた鳥肌が立ってしまいました。このように、さまざまな場所に伏線やたくらみ、あるいは時に遊び心が溢れているんです。

刊行後2年経っても毎月1万のDLが途切れない。『妻が口をきいてくれません』電子版大ヒットの理由を担当編集が語る。「家の本棚に置きにくいタイトルというのも一因なのでは(笑)」_2
『妻が口をきいてくれません』背表紙より

――では『さいごの恋』も、アッと驚いて鳥肌ものの展開が?

おそらく待っていることでしょう(笑)。野原さんの作品ですから、深いところにググッと響くような、世の中の女性たちが「私のことを描いたの?」と叫びたくなるような物語になっていくと思います。