クラシックカーの魅力と”マチャアキ節”
コース走行の合間に、堺氏にクラシックカーの魅力について訊ねてみた。
「クラシックカーには、先人たちが自動車の開発を進めてきた“痕跡”がうかがえます。各時代のエンジニアやデザイナーなどが、自らが最善と信じるメカニズムや造形を研ぎ澄ましていった努力の跡です。技術が次々と進化していった時代だったので、いわゆる“正解”はありませんでした。だから、それぞれのメーカーに特徴があったし、クルマそれぞれに特色がありました。個性がありました。個性に乏しい現代から見ると、そうしたクラシックカーの個性が一層と素晴らしく眼に映ってきます」
堺氏の話はわかりやすく、テレビなどで知っている“マチャアキ節”そのものだ。
「ボクも最初は気に入ったクルマを“カッコいいなあ”と眺めることから始まりました。でも、いろいろなイベントに出て、みなさんに教えてもらったり、自分でも調べたりしていくうちに、だんだんとわかってきたんです。同じ時代でもメーカーや国の違いによって全然違ったアプローチがなされていたり、同じメーカーでも時代が少し下っただけでガラリと変わったメカニズムやデザインなどが採用されていくようになっていったり。そうした、エンジニアやデザイナー、工場で組み立てていたような人たちまでも含めての個性と努力の結晶がクラシックカーなのではないか、と。だから、クラシックカーはその時代々々の人間の営みが見事に反映されている“作品”なんですね。それを知り、運転して感じ取れるところが、ボクにとってのクラシックカーの魅力となっています」
コース走行を終えた次の目的地は、小田原にある「江之浦測候所」だ。「海景」シリーズなどで知られる写真家/現代美術家の杉本博司氏が手掛けた文化/芸術施設。学芸員の解説付きによる所内ツアーの後に屋外でランチ。クルマとはまったく関係ないように思われるスポットを訪れるのも、また近年の国内外でのクラシックカー・イベントの特徴となっている。
ランチ後は、東京の赤坂プリンスホテル・クラシックハウスに設営されたゴールに向けて走った。コンディション調整のために小田原には向かわず、富士スピードウェイから直接に赤坂に向かったクルマも何台かあった。
雨も上がり、ほとんどのクルマが無事にゴールを迎えた。締めくくりは、ホテル内でのガラディナー(正装で出席する晩餐会)。競技ではないので、参加者全員に堺正章氏から一人ずつ記念品と表彰状が手渡され、来年度の開催を目指すことが宣言された。
「こうした機会を設けてくれた堺さんにお礼を述べたい」
参加者全員が異口同音に述べていた。
「クラシックカーは一人で走るよりも、今回のように仲間たちと走ってこそ楽しくなります」
それを受けての堺氏の言葉だ。涌井氏も同様のことを本の中で述べている。
「欲しかったクルマを手に入れて、一人でニヤニヤしているうちは世界は広がらない。同好の士とお互いにクルマを見せ合って、語り合うことで楽しみが増えていく」
今回の20台は逸品中の逸品揃いだったので、早くも第2回目の開催を期待する声が挙がってきている。
取材・文/金子浩久 撮影/田丸瑞穂
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