尾上菊之助が演者一人ひとりに電話でオファー

③ 新作の蓄積を生かす歌舞伎俳優たち

まだ間に合う! 『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』を絶対に観るべき5つの理由_3
劇場入り口前に掲げられた役者の幟

キャスティングにあたり、菊之助は、WBCの栗山監督ばりに一人ひとり電話でオファーしたといいます。このとき、菊之助にとっての大谷翔平は、中村獅童にほかなりません。

菊之助と獅童は、もう何年も共演がありませんでした。それでも声をかけたのは、ヴァーチャルアイドルである初音ミクと共演する「超歌舞伎」(2016~)でデジタルと歌舞伎との融合を牽引し、幕張メッセなどの会場でも若い観客を沸かしてきた獅童の力を必要としたからでしょう。

また、同じ音羽屋一門の尾上松也の存在も大きかったと想像します。菊之助肝煎りの『ナウシカ歌舞伎』(2019)などでの活躍もありつつ、松也はすでに5年前にステアラでの舞台『メタルマクベス』(2018)で主演を務めています。

この2人が、アーロンとシーモアという、作品の核となる重要な役を見事に担っています。とくに前編は、二人による激しい立廻りが舞台上にひとつのピークを生み出します。

尾上菊之助が栗山監督なら中村獅童は大谷翔平!?〈9時間公演〉『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』を絶対に観るべき5つの理由_a
ステアラ壁面に設置された巨大パネル

そして、忘れてならないのは、ヒロインであるユウナ役の中村米吉です。『ナウシカ歌舞伎』の再演(2022)で、菊之助がナウシカ役を米吉に受け渡した意味が効いています。一人語りの場面や「異界送り」と呼ばれる美しい舞踊の説得力は、あのナウシカを経たからこその賜物でしょう。

菊之助の息子、丑之助の存在感も光っています。とくに祈り子というミステリアスな役での、〈声〉が見事です。今回はユウナレスカという伝説の召喚士を演じる中村芝のぶが、『ナウシカ歌舞伎』の終盤において、やはりその〈声〉で舞台に奥行きを与えて評判を呼びましたが、丑之助の舞台終盤における働きはそれに匹敵するものがありました。

ちなみに『ナウシカ歌舞伎』では菊之助の義理の父である故・中村吉右衛門が〈声〉だけで重要な役を担いました。『FFX歌舞伎』においては、菊之助の実父である尾上菊五郎が最終ボスの〈声〉を担っています。