“うねり”を生み出した『エブエブ』

「今年のアカデミー賞は一番“優れた作品”が受賞したわけではない」Sexy Zone中島健人と共に授賞式をレポート。映画ジャーナリストが解説するアカデミー賞の内幕と『エブエブ』旋風の背景_2
ミシェル・ヨーが主人公のエヴリンを熱演
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『エブエブ』は、アメリカでさえない日々を送る中国系移民の中年女性が、マルチバースへジャンプしてカンフーの達人となり、強大な悪と戦い全宇宙を救う物語。奇想天外なSF映画だ。

「とはいえ、ストーリーも映像のスタイルも、斬新なことをやろうとした監督の野心が感じられますよね。そして、荒唐無稽なSFに見せかけてちゃんと家族の物語に収束させている。さらにアジア人キャストをフィーチャーし、アジア人のリアリティをしっかり描いています。この3本柱がちゃんとあるので、どこかに引っ掛かってグッとくる人がいたはずなんです」

「今年のアカデミー賞は一番“優れた作品”が受賞したわけではない」Sexy Zone中島健人と共に授賞式をレポート。映画ジャーナリストが解説するアカデミー賞の内幕と『エブエブ』旋風の背景_3
助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン。喜びを爆発させる姿に誰もがノックアウト!
AP/アフロ

アカデミー賞を席巻した理由はもうひとつ、大きな“うねり”を生み出したことも大きいのだとか。

「アメリカで映画が公開されたのは2022年3月。つまり授賞式の1年も前のこと。本来、アカデミー賞を狙おうと思ったら、そんな時期に公開しません(アカデミー賞を狙う作品は、映画会社が年末ギリギリに公開にすることが多い)。正直忘れ去られた映画でしたが、配給会社のA24がソーシャルメディアを使った巧みなキャンペーンを行ったことが功を奏したと思います。アカデミー賞も選挙と同じ。アメリカでは配信で既に見られるのですが、それによってファンがどんどん増えていきました。

そして、キー・ホイ・クァンをはじめとした『エブエブ』組の魅力ですよね。賞レースで受賞を重ねるたび、素直に喜ぶ姿が話題になりました。作品が好かれただけでなく、彼らが多くの人に愛され、大きなうねりを生み出したことも影響したと思います」

とはいえ、『エブエブ』の口コミには「よくわからなかった」という感想が多いのも事実。

「映画芸術科学アカデミー会員は白人の高齢男性が圧倒的多数でしたから、昔のアカデミー賞だったら絶対に賞は獲れなかったでしょうね。“理解できない”で終わっていたし、見向きもされなかったと思います。ところが、2015年と2016年、2年連続で演技部門にノミネートされた俳優全てが白人だったことを受け、“白すぎるオスカー”批判が起こりました。

それ以降、非白人の若い会員を積極的に招待。新しいものに寛容な会員が増えたことで、『エブエブ』のような作品に光が当たったのだと思います」