世界に1冊だけの大人のイタズラ

――今でもタイトルを変更してよかったと思いますか?

もちろん(笑)。出版されてから、別の作家に同行して地方へ講演会に行ったことがあったんです。そのとき僕も「集英社の新福です」と壇上で挨拶をしたんですが、講演会が終わったあとに女子高生から「新福さんってあのさくら先生の…」と声をかけられてビックリしました。

本のあとがきに少し書いてあっただけでも、そうやって覚えてくれる人がいるほど、さくら先生の本にはたくさんの読者がいるんです。本当に『さくら日和』になってよかったです(笑)。さくらさんはすごく残念がられていましたが…。

そうそう、無事に『さくら日和』で出版された数日後、『さくら日和』の装丁はそのままで、タイトルだけを『おめでとう 新福さん』に変更された本が、編集部とさくらプロ宛に届いたんですよ。

《さくらももこ展 横浜会場開催スタート》名エッセイスト・さくらももこが最後までこだわった新刊のタイトル。「編集部から修正をお願いしたのはその時だけです」_4
実物の『おめでとう 新福さん』

――それは誰からのもの?

いまだにわかっていないのですが、装丁だけじゃなく奥付など細かいところも『おめでとう 新福さん』に変わっていたので、おそらく編集のプロの仕業じゃないでしょうか。さくら先生はその本を見て「私は、これが作りたかったんだ!」と大喜びされていましたが、会社は騒然としました。というのもその本は、僕とさくらプロだけではなく当時の集英社の社長にも届いていたんです。

同じ内容の本をタイトルだけを変えて出版することは禁じられていたので、役員会議で大問題になってしまいました。僕はもちろん誰が作ったものか分からなかったので、それ以上の詮索はしようがなかったのですが、おそらく編集のプロである誰かのイタズラだったんだろうなと思います(笑)。

《さくらももこ展 横浜会場開催スタート》名エッセイスト・さくらももこが最後までこだわった新刊のタイトル。「編集部から修正をお願いしたのはその時だけです」_5
奥付まで『おめでとう 新福さん』という手の込んだイタズラだった