最初に美郷町役場に通報があったのは、10月4日午前7時半ごろ。
町内の認定こども園職員から「園庭にクマがいる」との連絡を受け、10分後に駆けつけた同役場の農政課長が車で追い払おうとするも、3頭のツキノワグマは園のすぐ隣にある斉藤製畳の作業小屋に侵入してしまった。
その後のクマと人間の攻防について、現場で対応した美郷町役場農政課の職員が振り返る。
「クマが作業小屋に侵入したため、小屋のシャッターを下ろして閉じ込めました。
午前8時前から農政課長が隊長を務める、美郷町鳥獣被害対策実施隊のメンバーが次々と現場に到着。猟友会と報じているメディアもありますが、中に猟友会のメンバーもいただけで、立場としては非常勤公務員です」(以下、同)
しかし、小屋の中で気配を消して潜むクマたちに、現場の緊張感は増すばかり。
「物音もせず小屋のどこにいるのか見当もつかない状態でした。
シャッターは一部が人間でも蹴破れるようなアルミサッシとなっていて、クマがいつ出てきてもおかしくなかった。とはいえ、うかつに入れば襲われかねません。
ドローンを飛ばして中の様子をうかがってみたところ、クマは小屋のすみっこ、除雪などに使うホイールローダーという重機のアーム先端部分に寝転んでいました」
「かわいそうだろ!」ツキノワグマ3頭駆除で町役場に苦情殺到。担当者は「私たちだって精神的にキツイし、苦渋の決断」ドローンも飛んだ決死のクマ捕獲大作戦の実態
10月4日、秋田県美郷町にある畳店の作業小屋に3頭のツキノワグマが侵入。いずれのクマも24時間ほど立てこもった末に捕獲、駆除されたが、これに対して、駆除を担当した美郷町役場に苦情が殺到しているという。美郷町役場農政課の職員に話を聞いた。
クマ立てこもり、緊迫の攻防

ツキノワグマ(※写真はイメージです)
ただし、いる場所を確認できても、そう簡単に駆除ができるわけではない。
「猟銃や麻酔銃は建物に向かって撃つことができないという規則があり、クマを外におびき出さなくてはいけない。
ですが、外で撃つにしても警察の発砲命令が必要なため、動くに動けないもどかしい時間が続きました。
午後3時半ごろにようやく警察からの発砲命令が下り、小屋の壁を叩いたり、爆竹を使っておびき出そうとしたのですが、結局、その日のうちにクマが出てくることはありませんでした」
日没以降は猟銃を発砲できないため、出口のアルミサッシ部分にエサとともに檻を設置して夕方6時に職員らは撤収。夜のうちに3頭すべてのクマは檻の中に入り、翌朝7時15分すぎにクレーンで檻ごと撤去。その日の午前中のうちに山中で駆除された。
「なぜ殺したのか」「かわいそうだろ」町役場に殺到する苦情
こうして幕を閉じたおよそ24時間にもわたるツキノワグマの立てこもり劇。しかし、地元住人はホッと胸を撫でおろすなか、このニュースを受けて秋田県庁には動物愛護の観点から多くの苦情が寄せられたとの報道も。
そしてその矛先は、当然、直接駆除にあたった美郷町役場にも向けられた。
「殺到といっていいくらい苦情はきています。『なぜ殺したのか』『かわいそうだろ』という意見が大半です」
クマの駆除に対するクレーム殺到はもはや恒例だ。記憶に新しいところでは、今年7月、北海道釧路町の牧草地で “最凶のヒグマ”「OSO18」が駆除された際も、釧路町役場に多くの非難が寄せられた。

今年7月に駆除された“最凶”のヒグマ「OSO18」の死骸
北海道のヒグマに比べ、本州を中心に生息するツキノワグマは一般的に危険性は低い。しかし、同じく秋田で2016年5月から6月にかけて起こった十和利山熊襲撃事件では死者4名を出すなど、ツキノワグマによる死傷者は定期的に報告されている。
さらに、今年はクマの目撃情報や駆除件数は飛躍的に上がっているという。
「近年、山から人里に熊が下りてくるケースがかなり増えており、美郷町も『足跡がある』『近所の栗の木に何度も来る』といった目撃情報が相当数、寄せられています。
駆除件数もこれまでは年間17頭が最多でしたが、今年は今回の3頭を含めてすでに39頭となっています」
ただ、いくら凶暴なクマとはいえ、職員も殺したくて殺しているわけではない。
「山中の餌も減り、縄張り争いもあるなかで、子育てをしながら生きていくのは困難……というクマなりの背景や事情があるのもわかります。ですが、一度人里に下りて作物を手に入れ、他のクマの脅威もないことを覚えたクマは、仮に捕まえて山に逃がしたところでほぼ確実に再び下りてきます。
私たちだって駆除現場を目にすると精神的にキツイものがありますし、命を奪うのはつらいです。
ですが、街の住人の安心安全を守るのが任務ですから、苦渋の決断であることは察していただきたいです」

美郷町に掲げられているクマ出没注意の看板(美郷町公式Faceboookより)
苦情の大半は県外の熊害の心配がない地域からだという。電話をかける前に、その土地の人の気持ちになって考えることも大切だ。
※「集英社オンライン」では、特定動物の駆除に関する苦情について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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