翻訳家・エッセイストの村井理子さん
翻訳家・エッセイストの村井理子さん
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対照的なふたりの“母”

――『実母と義母』には、これまでのエッセイに引き続き、今は亡き実家の母、姑である義母が登場します。今作では「自由で静かな生活を重んじる実母」と、「押しが強くて保守的な義母」という“ふたりの母”の対比により、女性の多面性がより実感をもって感じられました。

生きているときって、なぜだか家族とわかり合えないことも多いんです。私の場合、実母が亡くなって、また自分が年を重ねたことで、「あのとき、母はこう考えていたのかもしれないな」と考える機会が増えたんですね。今作では、実母の過去について思いを巡らせながら書きました。

義理の母に関しては、現在の義母と認知症になる前の義母、そして「若い頃の義母はどんな人だったのだろう」と想像しながら書きましたね。

――村井さんの実母は7年前、膵臓がんで亡くなられています。本作には「なぜ私は母を抱きしめてあげることができなかったのだろう。今になって後悔しても遅いのだが、そう考え続けている。」とありますが、生前、実母に対してできなかったことへの後悔が、現在、認知症の義母への介護に生かされているのでしょうか。

そうなりますね……ただし“あえて美しく表現すれば”、ですね(笑)。しかし実際のところ、「母にできなかったことを、せめて義母にはしてあげよう」と簡単に事が運ぶものでもありません。

というのも、義理の“母”とはいっても、自分の親ではない。義母と私はあくまで他人なんです。もちろん長い付き合いで育まれた情のようなものはありますよ。しかしそれでも、義母に対する感情と、母に対する気持ちはまったく別のものなんです。