毎朝、父の記憶とともに味わっているうちに、
日本茶をしみじみおいしいと感じるようになった

亡くなった父の位牌に煎茶を備えるのが、毎朝の習慣だ。線香の煙を眺めながら、私も朝の一杯を味わう。父は、母に「お茶呑みマシーン」とからかわれるほど日本茶が好きだった。女の子らしくしなさいみたいなことは一切言われなかったけれど、お茶はていねいに淹れるように教えられた。教えられた通りにしながらも、内心、お薄じゃあるまいし、淹れ方でそんなに変わるものなのかなあ、なんてあの頃は思っていた。

毎朝、父の記憶とともに味わっているうちに、日本茶をしみじみおいしいと感じるようになった。お湯を急須に注ぎ、茶葉が開くのを待つ時間が楽しい。
日本茶がぐっと身近になったのは、年齢もあるだろうし、酒量が減ったせいもあるのかもしれないが、「鎌倉倶楽部 茶寮小町」によく足を運ぶようになったのが大きかった。通っているジムへの通り道にあるので、しょっちゅう立ち寄る。

暖簾が揺れるエントランス
暖簾が揺れるエントランス
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ここは日本茶のワンダーランド。日本茶やそれにまつわるあれこれを「見て」「買えて」「味わえ」るのだ。お茶にあまり関心がない人が訪れたなら、その多種多様さに驚くかもしれない。

店の奥の棚には日本全国の茶葉がずらりと並ぶ。煎茶はもちろん、ほうじ茶に玉露、発酵茶など、種類もさまざまだ。パッケージには日本地図が描かれていて、わかりやすいように茶葉の産地に印がつけてある。そして、クリップでメモが留められており、そこにはグラム数にお湯の量、温度、蒸らす時間が記されている。今まで、なんとなくお湯を冷ましてお茶を淹れていたけれど、茶葉によって適している温度が五十五度〜だったり八十度〜だったりする。

日本全国の茶葉がずらりと並ぶ店内の棚
日本全国の茶葉がずらりと並ぶ店内の棚

コーヒー用に買った計りを使い、温度計を片手に湯冷しを用いて、お茶を淹れるようになった。気分はほとんど「実験」だ。指定の温度より熱く淹れたものと指定通りのものを比べてみたり、一煎目と二煎目を比べてみたり。そうこうしているうちに、自分の好みがわかってくる。