「加熱寿司」は、大手食品メーカーの日清食品に勤めていたという渡邊愛さんが、クラウドファンディングで資金を集めて寿司職人と共同開発した冷凍食品。クラウドファンディング成功後は、寿司ネタの品種や、加熱・冷凍・配送方法はもちろん、米の産地やすし酢の配合まで1から考えなおし、100回以上の試作を経て一般販売に至ったのだそうだ。
渡邊さんが妊娠中、医師から“免疫力が下がるので生ものの摂取は控えてほしい”と言われた際に、食事制限は妊婦にとって大きなストレスだと実感。そんな渡邊さんが同じ境遇の人のためにと開発したのが、この「加熱寿司」だ。宅配限定で1人前(9貫)・税込6900円(送料込み)となっている。
ちなみに「加熱寿司」の安全面は折り紙つきで、厚生労働省が定めている「家庭で出来る食中毒予防の6つのポイント」にある、「中心部分の温度が75°Cで1分以上」という基準をしっかりクリアした調理が施されているという。産婦人科医の監修もついているため、生ものへの配慮が必要な方も安心して楽しめるだろう。また、その美味しさへのこだわりも相当で、寿司職人が市場で目利きした食材を使っているほか、調理後は液体急速凍結機を使って宅配しているとのことだ。
それではここからは、フードアナリストの重盛高雄さんに「加熱寿司」を実食していただいた所感をうかがっていこう。
前代未聞の「加熱寿司」。レンチン3分20秒、9貫で6900円也のお寿司ははたして値段に見合う美味しさなのか?
売り切れ続出となっている高級冷凍食品「加熱寿司」が話題を集めている。寿司ネタを加熱するという驚きの発想で生まれたこの商品の実力を、フードアナリスト・重盛高雄氏が実食、解説してくれた。
食べる前からほとばしる“こだわり”に圧倒される

ロゴが焼印された木箱に入って届く「加熱寿司」に期待が高まる
重盛さんいわく、「加熱寿司」はブランディングも見事で、実食の前から期待値が高まったという。
「高級感あふれる木箱に入った状態で手元に届くところから驚かされましたね。箱を開けるとマットな手触りの注意書きに本品の保存方法、そして解凍方法が丁寧に記されています。その紙をめくった下には、ネタごとに採寸が異なる専用のトレーに乗った厚手の密封パック詰めの加熱寿司が入っています。
注意書きには、密封パック詰めの状態で500wの電子レンジで3分20秒解凍し、その後10分程度常温で置いておき、シャリが人肌の温かさになったタイミングで食すという、かなり細かな指示が書いてあります。この段階から美味しく食べてもらいたいという強いこだわりがひしひしと伝わってきました」(重盛さん、以下同)

付属の注意書きには“解凍後10分待て”という指示がある
お刺身とも焼き魚とも違う
“しっとりした新たな寿司の美味しさ”を開拓
気になる寿司ネタの内訳はどうなっているのか。

真空パック詰めされた色とりどりの加熱寿司たちには高級感が漂う
「全部で9貫あり、いずれもネタにはかなりのこだわりが込められていました。食感に桜海老粉を乗せることで風味を強化した『海老』、鹿児島県産の脂の乗った4kg台の『カンパチ』、長崎県壱岐産のブランド魚“紅瞳”を使用し、その上にウニまで乗せた『ノドグロ』。
ほかにも、長時間煮込んだことでふっくらとした舌触りの『穴子』、福岡県産・熊本県産のものを使い大葉と梅肉がトッピングされた『真鯛』。何層も重ねて食感を追求した『玉子焼き』、福岡県産・山口県産にこだわった『イカ』、炙ったことで旨味を引き出した『ホタテ』、そして5kg以上の脂の乗ったものを厳選した『サーモン』となっています」
ここからは、重盛さんが特に心を動かされたという3貫をご紹介いただこう。
「1つめは『イカ』です。これは食感の新しさに驚かされました。イカは生だとねっとりとした歯ごたえで、火をしっかりと通すと強い弾力が出るものですが、この『加熱寿司』の『イカ』はそのどちらとも違う中間のような不思議な歯ごたえなのです。生のイカが持つねっとりとした食感を残しつつ、しっかり火を通したイカの持つさっくりとした歯ごたえも感じさせるバランス感覚は見事ですね。また、まるでカールした髪のようになる隠し包丁も軽やかな食感に一役買っていました」

新感覚の食感が魅力だという「イカ」
「2つめは『穴子』です。長時間煮込んだことで身はふっくらと柔らか、脂の乗りも程よくしつこくない味わいです。下手な穴子の寿司はタレが濃すぎて、ほぼタレの味しかしないようなものもありますが、この穴子はタレの甘さが控えめで、あくまで穴子本来の濃厚かつ上品な味わいを届けようとしている一品でした。穴子は火を通した状態で出てくることが多い寿司ネタなので、逆にどんな仕上がりなのかが気になっていたのですが、奇をてらわずに王道路線で勝負するという気概が好印象でした」

上品かつ繊細な味が絶品の「穴子」
「3つめは『真鯛』ですね。これは『加熱寿司』のよさが一番強く感じられたネタでした。真鯛は生で食べるとかなり淡白な味ですが、火を通すことで上品な甘みが出る魚です。とはいえ、火を通しすぎてしまうと生の真鯛が持つしっとりとした口当たりは消えてしまう。『加熱寿司』はその両方のよさをうまく引き出していました。また、上に乗った大葉と梅肉も真鯛の風味を引き立たせるバランスで非常に美味しかったです」

生のしっとり感と火を通したときの甘みが両立した「真鯛」
そしてシャリも特筆すべきクオリティだったという。
「全品を通してシャリの仕上がりにも驚かされましたね。冷凍ご飯は解凍するとベチャッとした食感になりがちですが、まるで炊きたてのお米を食べているかのように、米粒の立ったふっくらとした食感で口ほどきもよく、握り具合も見事な力加減でした」
とにかく想定していた以上の満足度で、感動するレベルだったようだ。
「非常に完成された上品かつ繊細な味なので、個人的には醤油をつけないほうが素材の味をしっかり楽しめると感じましたね」
食後に隠された最後のサプライズにほっこり……
食べ終わった後にもちょっとしたサプライズがあったとか。
「『キッコーマン』が開発した“飲むお出汁”の『YOHAKU』がひと袋ついているのです。塩味は一切ついていない純粋なかつおダシを一杯飲むとホッと心が落ち着き、美味しいものをいただいたという気持ちを再確認させてくれました。ただし、こちらは初回生産分限定のサービスで今はついていないとのことなので、その点はご留意ください」

食後にホッと一息つけるお出汁パック
そんなトータルの完成度の高い「加熱寿司」だが、忖度なしで評すると少々気になった点もあったとか。

ターンテーブル式の電子レンジでは解凍しづらい?
「あえて気になるところを挙げるとすれば、トレーごとレンジで解凍する性質上、ターンテーブル式の電子レンジなどではスペースが足りずに均等に解凍できない場合もありそうだなと感じました。公式サイトなどにそのことを一言添えてもいいかもしれませんね」
しかし逆にいえば、食のプロが見ても懸念点はそういった些細な部分ぐらいということでもある。
最後に重盛さんは「生魚が苦手な人にもぜひ食べてみてほしい」と熱弁する。
「普通のお寿司だと魚特有の生臭さが苦手という方も少なくないでしょうが、『加熱寿司』にはそういった生魚のクセがありませんし、かといって火を通しすぎた焼き魚にありがちなパサパサとした食感もない。魚があまり好きじゃなかった人ほど、魚料理に持っていたイメージが覆されるかもしれませんよ」
――1人前(9貫)・税込6900円(送料込み)というお値段を少々お高めと感じる人も多いだろうが、重盛さんはその価格の価値は十分あると太鼓判を押す。妊婦の方にはもちろん、魚嫌いの方や新感覚の料理に舌鼓を打ってみたい方にもおすすめだろう。
取材・文/TND幽介/A4studio
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