家庭用編み機を用いて製作を続けている編み物☆堀ノ内さん。およそニットには似つかわしくないと思われる図案を精緻に編み込み、そのインパクトがファンを惹きつけている。

アインシュタインもナマ肉も三億円事件もペットも完璧に編み込む! “好きなものを着たい”に応えるオーダーニットに注文殺到【ニットの日】
人や動物の顔がドーンと大きくデザインされたニット作品を製作する、編み物☆堀ノ内さん。個人客のオーダーメイドやオリジナル、人気歌手のツアーグッズまで幅広く手掛けているという。2月10日の「ニットの日」に合わせて、彼の活動を紹介しよう。

アインシュタインの顔を編んだニットセーター

ガンジーのセーター
シンガーソングライターの岡村靖幸のツアーグッズも担当し、ナマ肉を全面にデザインした「肉ニットバッグ」や未解決事件の手配写真をモチーフにした「三億円ニットバッグ」などでも話題を集めた。

肉を大胆にデザインしたニットトート
現在は個人からオーダーを受ける受注会を定期的に開催し、オーダーメイドの“肖像編み物”を中心に制作している堀ノ内さんの作業場を訪ねた。
◆ ◆ ◆
きっかけは妻に言われた「暇ならバイトすれば?」
――現在の活動状況は?
編み物☆堀ノ内(以下、同) 最近はオーダーメイドが中心です。ありがたいことに受注会3回分のご注文がたまっていて、休みがありません(笑)。

編み物☆堀ノ内さん
――受注品の制作にはどれくらいの期間がかかるんですか?
1着1週間ほどです。それくらいの期間で編まないと仕事にならないですね。編み機を使用して編んでますが、最後の糸始末は手作業なのでそれが大変で。大学生の娘にも手伝ってもらったり。最近は忙しいみたいでやってくれないのですが……(笑)。
――どのような流れで製作しているんですか?
ドット絵のような設計図をパソコン上で制作してから編んでいきます。始めた頃は手編みだったので1着1カ月くらいかかっていました。

PC上で制作した図案
――ニット製作を始めた経緯は?
もともとはグラフィックデザイナーなんです。作業している場所は、学生時代の友人だったグラフィックデザイナーと3人で借りている事務所。もう入居して20年くらいなんですよ。
編み物は最初から仕事にするつもりで始めました。グラフィックデザインの仕事の空き時間が生まれてきてしまって、奥さんにも「暇ならバイトすれば?」なんて言われていて(笑)。
何をしようかと考えたときに思い出したのが、橋本治さんの編み物だったんです。
岡村靖幸のおかげで「理解され始めた」
――枕草子を現代風に翻案した作品などで有名な作家ですね。
『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』(河出書房新社)という本が、僕が中高生の頃に発売されて話題になっていて。
山口百恵やデヴィッド・ボウイを手編みで写真のように精巧に編み込んでいるんです。当時は手芸に興味もありませんでしたし、その本を読んだわけではなかったんですが、それでも衝撃的で記憶に残っていた。
自分がそれだけ驚いたので、これをやったら他の人も驚くだろうと思ったんですね。
編み物を始めてからきちんと本も読みました。最初はもう少しグラフィックデザイン的な図案を考えましたが、仕上がりが面白くなくて。結局、人物を編む橋本治流に戻りました。
手編みの温かさや味のようなものはあえて排除して、図案の通り精密に編んだほうがインパクトがありますね。

三億円事件をモチーフにしたニットトート

影響を受けた書籍『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』

家庭用編み機で製作している
――結果的に計画通り、仕事にされているわけですね。
でもオーダーメイドが中心になったのは想定外なんですよ。
ニットを仕事にしようと思ったときは、企業をクライアントに、グッズ化やCMなどの小道具を担当するというのをイメージしていました。
――そんな中で現在のスタイルにたどり着いた経緯を教えてください。
手編みでの作品を作り始めたのが10年前です。
転機になったのは2019年に岡村靖幸さんのツアーグッズを制作したことですね。岡村さんご本人がSNSで見てくださったそうで、スタイリストさん経由で問い合わせをいただいて。工場に発注して100着くらい制作したのが初の量産でした。
編み物を始めた当初、周囲は「何をやってるんだ?」という反応でしたが、岡村さんのおかげで理解され始めた気がします(笑)。

ツアーグッズとして製作されたニットセーター
ギャラリーからの引き合いがあり展示などもするようになる中、同じく2019年に初めて受注会を開きました。やってみたら意外なほどたくさんオーダーしに来ていただいて。
さらに同時期に、(玩具の企画・販売を手掛ける)メディコム・トイとのコラボレーションで量産品を販売したりもして軌道に乗った形ですね。
フルタイムでニットの仕事をするようになりました。
「好きなものを着たい」に応える
――オーダーを取ることにしたのはなぜですか?
直接の問い合わせがきっかけです。インスタグラムで作品をご覧になった外国の方が作ってくれとDMで問い合わせをくださったんです。
――海外からだったんですね。
耳が早いのか、行動力があるのか、募集もしていないのに問い合わせが来ました。けっこうな件数をそういう形で受注していましたよ。
受注会を始めたのはその後です。国内の方のオーダーは確か受注会を始めてからですね。いずれにせよ、「好きなものを着たい」という同じ気持ちがあるんだなと。

さまざまなオーダーに応える大量の毛糸。使っていた色が廃盤になることも多く、毛糸の色をそろえるのも大変とのこと
――「好きなものを着たい」。
ライブTシャツのようなものの上位互換なのかなと思うのですが、編んでもらいたいほど好きってすごいことです。
――確かに、ニットにまでしてもらうと満足感はすごそうです。
オーダーされるのはとにかくその人が大好きなものですね。一世を風靡していたアニメの図案で6着オーダーされた方もいました。
好きな漫画やミュージシャンというのも多いですが、ペットや亡くなったご家族というオーダーも少なくないです。
僕自身のオリジナルはどちらかというと図案として映えるかどうかで編むモチーフを決めているので、自分では着ないんです(笑)。

ペットのモチーフも製作している

――映える、映えないがあるんですね。
メジャー過ぎるとイマイチはまらないんです。ふざけてるやつとか、ちょっとズラしたもののほうがニットにハマる。
「三億円事件」のモンタージュなんかはモチーフとして最高でした。怒られなさそうですし(笑)。
――オーダーするのはどんな人ですか?
ハイブランドの既成のセーターくらいの価格なので、率直に言えばお金持ちだなあと思う方が多いです。
でも普通のお勤めの方もオーダーしてくださって、そこに熱量を感じる。だからそれに応えたいと思っています。
◆ ◆ ◆
作品のインパクトで「好きなものを着たい」という意外なニーズを引き当て、編み物を仕事に昇華させた編み物☆堀ノ内さん。
定期的にオーダー受注会を開いているので、着たいほど好きなものがある人はぜひチェックされたい。

編み物☆堀ノ内
公式HP>>
https://www.amimono.tokyo/
Instagram>>
@amimono_horinouchi
取材・文・撮影/宿無の翁
写真提供/編み物☆堀ノ内
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