
“顔面凶器”小沢仁志「動機が不純なほどトレーニングは長続きすんだよ」。還暦とは思えぬ締まった肉体で120人と大乱闘。「コンプラもセーフティもねえ!」
「Vシネマの帝王」「顔面凶器」などの異名を取る俳優・小沢仁志。還暦記念のアクション映画と40年の俳優人生について話を聞くと、「コンプラ上等!」な破天荒エピソードが次々に飛び出した。
俳優・小沢仁志 インタビュー前編
過去の悔しさに「ケリをつける」作品
演じた役柄のほとんどが不良、ヤクザ、殺し屋といった「アウトロー」。劇中で殺した人数は2000人を超え、撮影での骨折回数は約50回……などなど、数々の伝説を持つ俳優・小沢仁志。
2022年に60歳を迎え、「還暦記念作品」として世に放った主演映画が『BAD CITY』(1月20日全国公開)だ。かねてより「OZAWA」名義でプロデューサーや監督も担ってきた小沢は、本作で製作総指揮と脚本も兼務している。

昨年還暦を迎えた小沢仁志
製作の経緯を聞くと、話は1995年、初めてプロデュースを手掛けた主演映画『SCORE』(室賀厚監督)にまでさかのぼった。
「当時、(クエンティン・)タランティーノが5000万円で作った『レザボア・ドッグス』(1992年)がヒットしてて、室賀に言われたんだよ。『俺らもやりましょうや。…500万で』って(笑)。
それで『ザ・ワイルドビート 裏切りの鎮魂歌』(1994年/オリジナルビデオ作品)を作った。推薦コメントをもらおうと(映画プロデューサーの)奥山和由さんに見てもらったら、『お前ら、3000万出すから、好きなもん撮ってこい』って言ってくれて、撮ったのが『SCORE』。
評論家の評判もよくて賞も獲ったけど、奥山さんが宣伝に2億かけて公開したから、資金は半分も回収しきれんかった。それが、ずっと悔しくてさ。今回、還暦の60っていうキリのいい数字を見たときに、ケリをつけるなら今かなと思った」
肉弾戦のアクション映画にしたいと考え、ヤクザや韓国マフィアが入り乱れる犯罪都市で、ワケあり刑事が巨悪に立ち向かうというストーリーを考えた。脚本執筆のツールは、パソコン。しかしブラインドタッチとはほど遠く、「俺は指1本。だから時間がかかる」と小沢は笑う。
監督は、『マンハント』(2018年/ジョン・ウー監督)などのアクション監督として知られる園村健介氏。キャストには「ずっと共演したかった」というリリー・フランキーをはじめ、かたせ梨乃、加藤雅也、壇蜜ら豪華な面々がそろった。

『BAD CITY』より
エグゼクティブ・プロデューサーは、小沢が企画した任侠シリーズ『日本統一』を成功させたライツキューブの鈴木祐介氏。
「鈴木から撮影にGOが出るまでが、一番の戦いだったかな。最初の脚本では肉弾戦や銃撃戦に加えて、すさまじいカーチェイスもあって。『無茶です!』って鈴木が言い続けるから、『じゃあ、カーチェイスを切ればいいんだろ? でも、ここは切らねぇよ』みたいな。
プロデューサーは、引いた目で見渡さないとプロジェクトが破綻する。俺は無茶でも話を盛って、戦場(撮影)に出る。そういう戦いだからさ」
“金属バッド”で殴られて「星出た(笑)」
撮影は、福岡県福岡市と中間市を中心に、関東近郊でも敢行。通常は「制作部」と呼ばれるスタッフがロケ場所を探すが、小沢自らロケ地のコーディネートも行った。
「制作部が探すとだいたい同じ場所になって、役者は『また、ここか』となる。それが嫌だから、俺は知り合いのところを借りるんだ。
例えば、リリーさん演じる財閥の会長の豪邸は、北九州のパチンコ屋の会長の家。事前に挨拶に行って、高そうなカーペットの値段聞いたら『2億かな』とか『この珊瑚は3億』って。それ聞いて、『中では飲食禁止! 床には何にもつけるな!』とスタッフに言った(笑)」
見どころは、解体直前のショッピングモールで撮影したというラスト23分のクライマックス。120人もの敵と大乱闘を繰り広げ、60歳とは思えないアクションを見せる。

『BAD CITY』より
「監督が『撮影に3日ほしい』って言うから中間市の市長に頼んだんだけど、『工期が遅れるから1日が限界』と。1日で撮るには、24時間撮り続けなきゃいけない。でも、壁ではなかったよ。そういうのを乗り越えていくのが撮影だし、壁は、ぶち壊しゃいいから(笑)。
当日は、九州の小沢会(後援会)や中間市の婦人会が、ラーメン、豚汁、けんちん汁と、あったかい飯を作ってくれてありがたかったな。
そのシーンで、俺が金属バッドや鉄パイプでバンバン殴られてるけど、あれは硬いプラスチック製なんだよ。曲がんねぇから、当たるとまあまあ痛ぇんだ。でも、遠慮なんかされて、それが映ったら台なしになる。
当ててくんないとリアクションも取れねぇから、『ガンガン来いよ。平気だから!』って。そうして本番、本気で殴ってもらったら、衝撃で星出たね(笑)」

「コンプライアンスもセーフティもねぇ!」
小沢だけでなく、全キャストがほぼノースタント。だからこそ、手に汗握るスリルと迫力を味わえる。
「この映画には、コンプライアンスもセーフティもねぇんだ。そんなの、今の時代、マネージャーが出てきて止められるよ。『うちの役者がケガするじゃん!』って。
もちろん、吹き替えと本人部分でカットを割って細かくつないでいくと、テンポは出る。だけど、長回しで本人が戦っていると、観客は息を呑んで見てくれるんだよ。
実際、見てくれた人は『ラスト23分は息が止まった』って言ってたね。こういう映画は、メジャーでは作れない。仲のいいプロデューサーが言ってたよ。『やっていいんだ、こんなこと』ってね」

『BAD CITY』より
公式サイトには、「本作のために小沢は徹底したトレーニングを行い、強靱な肉体を作り上げた」とある。
「いや、この映画のために特別に何かやったわけじゃないんだ。普段からトレーニングしてるから。強いて言えば、もう何十年も人をぶん殴ってないから、人型のサンドバッグを買って、1年間、ぶん殴り続けたぐらいだな。
マウントを取って相手を殴るときの説得力って、あると思うんだ。だからサンドバッグを寝かせて、ひたすら殴り続けた」

「普段からトレーニングしている」という、その理由が小沢らしい。
「夏になると、20代の若い姉ちゃんと海に行ったりするわけだ。そのとき腹が出てたら、父親かパトロンにしか見えねぇだろ? それが許せねぇから、俺は体を保ってる。
仕事のためにトレーニングなんかしてたら、作品が終わるたびにゆるんじゃうじゃんかよ。こういうのはね、動機が不純なほど、長続きすんだよ(笑)」
後編では、デビューから40年の俳優人生と、数々の武勇伝を紐解いていく。
取材・文/泊 貴洋
撮影/柳岡創平
場面写真/©2022「BAD CITY」製作委員会
『BAD CITY』(2022)
製作総指揮・脚本/OZAWA
監督・アクション監督/園村健介
出演/小沢仁志、坂ノ上茜、勝矢、三元雅芸、中野英雄、小沢和義、永倉大輔、山口祥行、本宮泰風、波岡一喜、TAK∴、壇蜜、加藤雅也、かたせ梨乃、リリー・フランキー
配給/渋谷プロダクション
「犯罪都市」の異名を持つ開港市で、韓国マフィアがヤクザの組長を惨殺。時を同じくして、五条財閥の会長が無罪放免になる。その判決に裏があると考えた検事長は、特捜班を結成。ある容疑で拘置所に勾留中の元強行犯警部・虎田誠がメンバーに選ばれる。立ちはだかる巨悪との戦い。果たして虎田ら特捜班は、五条を検挙できるのか——。
2023年1月20日(金)より全国公開。新宿ピカデリー同日18時30分〜の回の舞台挨拶に小沢仁志、坂ノ上茜、勝矢、圭叶、山口祥行、加藤雅也、かたせ梨乃、園村健介監督が登壇予定!
公式HPはこちら https://www.badcity2022.com
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