ビスブラ、唯一の弱点は集客? 「キングオブコントで優勝したあとの大阪初ステージはお客さん19人しか来てなくて。これは内緒にしとってください」
これまで芸人仲間から「めちゃくちゃおもろいけど、ほんまウケへんな」と言われ続けてきたというビスブラのふたり。キングオブコント2022の優勝をはたした今、どんな未来を思い描いているのか。漫才、東京進出、そして「グリーン車問題」についても聞いた。
ビスケットブラザーズ インタビュー♯3
大阪でコントだけやってると相当「尖ってる」印象に

ボケの原田泰雅(左)とツッコミのきん(右)
—— 今、同年代の大阪の芸人たちは、当たり前のようにコントも漫才もやりますよね。ビスケットブラザーズも関西の漫才新人賞等を受賞していますが、もともとはどちらがメインだったのですか。
原田 僕らはコントです。コントなんですけど、大阪におって漫才せえへんっていう選択肢はなかなかないんじゃないですかね。文化的にも、環境的にも。だから、東京吉本の空気階段としゃべってて、これまで漫才ネタを1本しか作ったことがないと聞いたときは、けっこう驚きましたね。僕らの周りには、そういう人はいないんで。
——大阪吉本の若手が主戦場としている劇場は「よしもと漫才劇場」と「漫才」という文字が入っているくらいですからね。
きん 漫才劇場ができるとき、名称がそれなんで、漫才しかできなくなるみたいな噂もあったんです。蓋を開けてみたら、お笑いであれば何でもOKだったんですけど。
原田 東京の人はコントだけ、漫才だけって普通じゃないですか。大阪にも漫才だけという芸人はいっぱいいますけど、コントだけでM-1は出えへんみたいな人がおったら、相当「尖ってるな」という印象になるでしょうね。
きん 先輩方もだいたい両方やっとったもんな。アキナさん、モンスターエンジンさん、天竺鼠さん。
原田 ジャルジャルさんもそうですし、かまいたちさんもそう。

——ビスケットブラザーズさんの比重的にはコントと漫才、どんなものなのですか。
原田 7・3ぐらいですね。7がコントです。単純にネタの本数ということでなく、気持ち的にという意味で。
――キングオブコントのファイナル進出が決まった日は、ともに決勝進出を決めた大阪吉本のニッポンの社長、ロングコートダディーと決起集会を開いたとか。
原田 ニッポンの社長の辻さんと、ロングコートダディーの堂前透さんと、僕ら2人です。劇場の同志なので、この中からチャンピオンを出そうな、みたいな。
きん あとはずっとコント談義をしていましたね。
原田 ニッポンの社長とロングコートダディーは化け物ですよ。
きん どっちもM-1とキングオブコント両方に出て、コンスタントに上位まで残って、さらには新ネタもばんばんつくってる。
原田 僕らはいいコントネタを年に1、2本つくるのでいっぱいいっぱいなんで。ブラッシュアップにも時間がかかるし。
きん キングオブコントは去年みたいに準々決勝で負けたりすると、ある部分ではラッキーやったりするんですよ。ネタを温存できるので。
“戦友”たちにかけられた言葉
――準決勝まで勝ち進んで、ネタを2本披露した上で負けると、翌年、その2本は使いにくくなってしまうとよく聞きます。
きん そうなんですよ。毎年、あそこで戦えるレベルのネタを2本そろえるというのは本当に大変なんで。
原田 決勝で2本目のネタが終わったとき、ニッポンの社長とロングコートダディーが近寄ってきてくれて「ようやった」みたいな声をかけてくれたんです。それが、あの日、いちばん嬉しかったことかもしれませんね。
劇場でともに戦ってきた仲間なんで。(2位通過の)コットンも結果発表まだやのに「優勝ですよ、兄さん」みたいな。あいつら、めっちゃ優しいんで。

「M-1とキングオブコント両方に出て、コンスタントに上位まで残ニッポンの社長とロングコートダディーは化け物ですよ」と語る原田
きん でも、あれで俺らがコットンに負けとったら、えぐいな。その気にさせるだけさせといて。
原田 ほんまや。こわっ。あいつら、自分たちをよく見せるの、うまいからな。
——大会後の会見では、これまでは劇場にお客さんを呼べていなかったので、今回の優勝をきっかけに何とか集客に貢献できるようになりたいと話していましたが。
きん 呼べてなかったんです。周りがすごくて。
原田 ニッポンの社長、ロングコートダディ、マユリカあたりが劇場の看板なんで。
きん 滝音も人気がある。僕らは彼らと同じグループですみたいな顔をして劇場に出入りしてますけど、僕らは客を呼べていないんですよ。
――それはなぜわかるのですか。
きん 単独(ライブ)の売れたチケットの枚数が張り出されるんです。それで如実に表れる。僕らは本当にかわいらしい数字。
原田 クリンとした数字。
きん ああ、集客弱いんやな、と。
賞レース優勝者の「グリーン車」問題
――全国的なコンテストにおける優勝は、東京進出のチャンスだとも言われますが、まだ、そこまでは考えられないですか。
原田 考えないこともないですが、まずは大阪の劇場に恩返しをしたいですね。芸歴9年目ですが、最近ようやく大阪でちょっとは食べられるようになってきたばかりなので、それでいきなり東京と言われてもビビっちゃうところもありますし。
僕ら、これまで仲間には「めちゃくちゃおもろいけど、ほんまウケへんな」って言われ続けてきた芸人なんです。
きん 劇場のレギュラーメンバーでい続けることに必死でしたからね。こんな大きなレースで勝てるなんて、あったとしても、まだまだ先のことだと思っていたので。今もまだ劇場におらせてくれるだけで十分幸せという時期でしたから。

「キングオブコントで優勝したあとの大阪初ステージでのお客さんの数は、内緒にしとってください」と語るきん
原田 ただ、これからはチャンピオンとしてネタをやらなければならない機会もあると思うんです。チャンピオンが集まるネタ番組、あるじゃないですか。
――去年、今年と放送された「キングオブコントの会」(TBS)ですよね。
原田 あそこでしょぼすぎるネタはできないんで。その準備だけは常にしておかなあかんなとは思ってます。
きん 『野犬』も3年かかったように、僕らは磨くのにもめっちゃ時間がかかるんで。
――ちなみに今、吉本はM-1で優勝すると芸人は新幹線移動が即グリーン車にランクアップするそうですが、キングオブコント王者はどうなのですか。
きん 何回かグリーンで移動させてもらいました。
原田 今のところグリーン車です。これって、ずっとなんですかね。
――一般車両に格下げということもあるのですか。
きん 明らかに集客に貢献していなかったら……。怖いな。腫れ物扱いされちゃいますね。グリーンに乗ってもええやろというぐらいの働きをしていかないと。
原田 優勝したあとの大阪初ステージは、平日の森ノ宮よしもと漫才劇場だったんですけど、お客さん、19人しか来てなくて。
きん そいつらにグリーンはないわな。
原田 優勝したとき、社長に「今まで赤字なのに劇場に出させてもらってありがとうございます」って言ったら、「これからは黒字やね」ってめっちゃ優しい言葉をかけていただいたんです。その直後の大阪のライブで19人やったんで。バレたら、絶対ヤバい。
きん これは内緒にしとってください。

取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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