#1より続く
『仮面ライダーガッチャード』悪役クロトーを演じる、女優兼格闘家・宮原華音。ラウンドガールからプロのファイターへ「デカノンといわれる高身長がコンプレックスだった」
あるときは仮面ライダー俳優、あるときはラウンドガール、そしてまたあるときは格闘家。3つの顔を持つ“戦う女”宮原華音に、プロ格闘家としてデビューしたきっかけを聞いた。
仮面ライダーシリーズ最新作『仮面ライダーガッチャード』で、悪の集団〈冥黒の三姉妹〉のクロトー役として出演中の宮原華音さん。劇中でも格闘能力が高いキャラクターとして奮闘しているが、実は小学生から空手をはじめ、プロ格闘家としてリングにも立ったことがあるという本格派だ。
格闘技に目覚めたきっかけや、リングでの本気の覚悟を聞いた。
高い身長は、コンプレックスだった
――女優、ラウンドガール、格闘家という三刀流の宮原華音さんですが、ルーツは小学2年生で始めた空手なんですよね。
そうです。空手の前にピアノもやっていましたが、イスに座ったままでいるのも、練習するのも嫌いで。当時は泣き虫だったので、メンタル強化も含めて空手がいいんじゃないかと母に勧められて。もっとも母は1、2年でやめさせようと思っていたみたいです。
――それが小学5年生で、全日本少年少女空手道選手権で優勝! 才能が爆発しました。
2度目に出た小さな大会で優勝しちゃったことで、“才能があるのかも!?”と勘違いしてしまったのがそもそものはじまりで。全国大会で優勝できたのも、ひとつは同級生の男の子たちから、デカい華音ということで、”デカノン”と呼ばれるほど身長が高かったことが要因だと思います。
――そんなに高かった?
当時で、167cmくらいありましたから。空手を始める前は同級生の男たちから、“デカノン”と呼ばれるのがものすごく嫌で。背の高いのがコンプレックスでしたが、空手ではそれが有利になるので、「で?」とか、「だから、何?」と、言い返せるようになっていました。

――日本一になるには、練習もかなりハードだったんでしょうね。
道場の先生から「日本一練習した人間が、日本一の選手になれるんだ」と言われて、その気になったのは間違いないです。「だったら日本一練習をしよう!」と思って、大会前は学校に行く前に走って、放課後は自主練をしてご飯を食べてから道場に通うという三部練をこなしていましたね。
――小学生の頃からすでにストイックな性格だったんですね。
きつい練習を頑張れたのは、優勝したら大好きな焼肉屋さんに連れていってもらえるとか、ゲームを買ってもらえるとか、ご褒美に釣られたからです(笑)。
後楽園ホールのリングに立つ意味
――昨年4月から、女優と並行して、キックボクシングを主体とした格闘技『RISE』のラウンドガールとしても活動されています。
生で観戦したとき一発でその面白さにハマってしまって。少しでもいいから『RISE』のために何かできるなら、受付でもリング作りのスタッフでも、もうなんでもよかったのですが、たまたまラウンドガールのオーディションがあるというお話を聞いて。
――ところが格闘家として東京・後楽園のホールのリングに上がるという、“まさか”の展開が待っていました。
本当にまさかでした。自分の強みは動けること戦えることなので、「選手としてリングに立ってみないか」というお話をいただいたのはうれしかったのですが……それでも、ためらいました。

――宮原さんの経歴があったからこその展開です。
後楽園ホールのリングは選手にとって、“聖地”なので、本当に私がそのリングに上がってもいいのか、本当に悩みました。後楽園ホールのリングに立ちたくても立てない選手やスタッフ、そしてファンの方に対して、恥ずかしくない試合ができるのかどうかを考えるのが先でしたね。
――自信はありましたか?
試合の1ヶ月半くらい前から、プロの方たちと練習させていただいたんですけど、毎回ボコボコにされて。今考えると当たり前なんですけど、不安と恐怖でドン底までおちて、試合の1週間前に、ジムの代表を務める宮城大樹さんの前で、大樹さんが慌てるほど泣いちゃいました(笑)。
――そこからどうやって立ち直ったんですか。
練習相手をしてくださった選手に素直に頭を下げて、アドバイスをいただいたのがひとつ。もうひとつは、試合が終わったら勝っても負けても美味しいものが食べられるんだと、自分の目の前にニンジンをぶら下げたことです。結論として、今も昔もわたしは、ご褒美というモノには弱いんです(笑)。
殺られる前に殺る!
――そしていよいよ2023年の4月21日、格闘技者・宮原華音として後楽園ホールのリングに立ちました。
ラウンドガールとしては何度も経験した場所なのでホーム感は強かったのですが、試合用のコスチュームに着替えて、リングに向かう通路を歩いているときは、冷静な自分とガチガチに緊張している自分が揺れている感じでした。
――スイッチが入ったのは、名前をコールされたときですか。
リングインしたときですね。かわいくとか笑顔でとか、ラウンドガールのときの思いはどこかに吹っ飛んで、“絶対勝つ!”という、ただそれだけを考えていました。
――試合は、宮原さんのワンツーで始まりました。
大樹さんから、「宮原さんは空手で戦ってきた経験がいっぱいあるから、その感に従って戦えば大丈夫」と言っていただいたので、自分の武器であるスピードを活かして、先にパンチを出そうというのは決めていました。ただ、相手の蹴りが痛くて、精神的にはギリギリでした。

ジムでスパーリングする宮原さん ミットを持つのはターゲットジムの宮城大樹さん
――結果はミドルキックから、右フックを何度も相手の顔面に叩き込み、1R39秒、鮮やかすぎるほどのKO勝ちです。
試合の大まかな流れだけを追うとそうなるんでしょうけど、実際は違います。相手の膝蹴りを喰らった瞬間、もうめちゃくちゃ痛くて、このまま反撃しないと殺されちゃうと思いました。
――殺られたくなければ、殺るしかない!?
そうです! 恥ずかしくない試合をしたいとか、かっこよく勝ちたいとか、そういう気持ちは微塵もなくなっていて、「これは殺し合いだ」と(笑)。殺らなきゃ殺られるという、シンプルな気持ちで戦っていました。
――最後にひとつ、お聞きします。もう一度、選手としてリングに立つという気持ちは持っていますか。
今は、9月からスタートしたテレビ朝日の『仮面ライダーガッチャード』のことしか頭にありませんが、もしも撮影がすべて終わって、「もう一度」というオファーをいただいたときに、自信があったら、そのときはもう一度選手として、という気持ちはあります。
取材・文/工藤晋 撮影/松木宏祐 スタイリスト/木村美希子
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