
エンタメ 2022.04.04
響きあう“少女性”と“クリエイティブ” くらもちふさこが50年追い続ける 少女まんがの「きらめき」
1972年に「別冊マーガレット」でデビューして以降、時代により画風を変えながら常に最先端の少女まんがを紡ぎ続けるくらもちふさこ先生。50周年を迎えた2022年、文京区・弥生美術館では、初の単独個展「くらもちふさこ展」が4期に渡り開催されています。集英社オンラインでは、通期に渡りムービーと写真で記録をとり、この貴重な個展をアーカイブ化。“公式ヴァーチャル展覧会”として公開します!【デビュー50周年記念 くらもちふさこ展 その1】
SHARE

©くらもちふさこ/集英社
くらもちふさこ
東京都渋谷区出身。1972年『メガネちゃんのひとりごと』が別マまんがスクール金賞を受賞しデビューを果たす。以降、「別冊マーガレット」の看板作家として『いつもポケットにショパン』『東京のカサノバ』『海の天辺』『チープスリル』など数多くの連載をヒットさせた。1994年には、オトナのための少女まんが誌として創刊された「コーラス」に活動の場を移し、『天然コケッコー』で第20回講談社漫画賞を受賞。10年以上かけて完結させた『駅から5分』『花に染む』のシリーズが第21回手塚治虫文化賞マンガ大賞に選ばれた。現在「ココハナ」にて『とことこクエスト』を連載中。
©くらもちふさこ/集英社
デビュー50周年記念くらもちふさこ展―デビュー作から「いつもポケットにショパン」「天然コケッコー」「花に染む」まで―
<開催地>弥生美術館
<開催期間>2022年1月29日(土)〜2022年5月29日(日)
<リンク> https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html
弥生美術館は、弁護士の鹿野琢見氏が私費を投じて設立した小さなミュージアム。明治・大正・昭和と児童雑誌の挿絵家として人気を誇った高畠華宵(たかばたけ・かしょう)や、日本の近代グラフィックデザイナーの祖ともいえる竹久夢二の作品をコレクションし、児童文化・まんがに関する質の高い企画展を数多く実施してきた。そのため、出版関係者・作家の来館も多く、駒込育ちのくらもち先生にとっても思い入れのある場所だ。

©くらもちふさこ/集英社
↑東大・弥生門に面したレンガ造りの瀟洒でレトロな建物(撮影:細川葉子)
「何度も通った歴史ある弥生美術館のこの壁に、自分の絵が飾ってもらえるようになるなんて思ってもいませんでした! となりで竹久夢二の展示が行われているのもうれしいですね。夢二のついでに私の絵も見ていただけたら…」とはにかむ、くらもち先生だが、本展のキュレーションを担当した外舘恵子さんにとっては“満を持した”企画だったそう。

©くらもちふさこ/集英社
↑美術館で原画の展示作業にあたる学芸員の外舘恵子さん(撮影:弥生美術館)
「いつか当館でくらもち先生の展覧会をしたいと思っていたんです。ですので、映画に合わせた“天然コケッコー展”や、いくえみ綾先生との“二人展”が開催されていく傍らで、密かにチャンスをうかがっていました(笑)。そうして、50周年の記念となる2022年を前に、このタイミングしかないという思いで“ぜひうちで展覧会を!”とご提案いたしましたところ、実現の運びとなったのです」と、外館さん。
企画が決定したのち、くらもち先生のアトリエからほとんどすべての原画が集英社の会議室に運び込まれたのが、2021年の夏のこと。“二人展”の図録と、今回の記念画集『THEくらもちふさこ』の装丁を担当したブックデザイナーの名久井直子さんも「ほとんど全部の原画をもう見ていたと思っていたら、まだまだたくさんあるじゃない! これ…全部入れられないかなぁ…」とつぶやくほどの物量。なかでも「本文カラー」は、とても新鮮に映ったそう。

©くらもちふさこ/集英社
↑『100mのスナップ』などの本文カラー。1コマずつ水彩画のよう(撮影:ハナダミチコ)
くらもち先生が最も活躍した1980年-90年代の「別冊マーガレット」は、豪華連載陣が綺羅星のごとく競い合う、都会のオシャレな風吹く少女まんが誌。

©くらもちふさこ/集英社
↑『アンコールが3回』連載当時の別マ。POPな色彩が特徴(撮影:ハナダミチコ)
そんな人気漫画誌の中でも、物語の冒頭部分がカラーで掲載されるのは人気作家の証。代表作『いつもポケットにショパン』(1980)は、ほぼ毎回巻頭カラーで別マに掲載された。しかしそれらのカラーページは、コミックス収録時には当然モノクロになっている。鮮やかな本文カラー原稿は、記憶を一気に「別マで読んでいた、あの頃」に引き戻すタイムマシンのようでもあり、初見となる若い世代にとっては、まるで新作を読んでいるかのような迫力をもって、そこにズラリと並んでいたのだ。
「この、原画の、輝くような美しさを、なんとかみなさんにお届けしたい!」というスタッフの気持ちから、50週年の原画展&画集は、カラー原画、特に本文カラーなど、雑誌掲載時以降あまり目にふれることのなかった原画も積極的にセレクトし、構成されることになった。

©くらもちふさこ/集英社
↑『いつもポケットにショパン』原画と文庫の比較。原画では感情に合わせて色合いが変わる(撮影:ハナダミチコ)
『おしゃべり階段』『いつもポケットにショパン』あたりから、くらもち先生が愛用しはじめるのが、カラーインク。50周年記念画集『THEくらもちふさこ』に収録された聖千秋先生との対談でも、聖先生が「のちの別マの作家は、くらもち先生が使っている画材を使えば間違いないとみんなで真似をした」「はじめて自分が予告カットを描く前に、担当編集が、くらもち先生のカットを見本としてみせてくれた」と証言するほど、くらもちふさこ先生が描くカラーイラストが、その時代の少女まんがの代表色になっていたのだ。

©くらもちふさこ/集英社
↑聖千秋先生が実物を観た時驚いたという「予告カット」。洋服の柄も緻密(撮影:ハナダミチコ)
愛蔵版コミックスTHE くらもちふさこ デビュー50周年記念画集

2022年1月25日発売
3,960円(税込)
B5判変型/160ページ
ISBN:
978-4-08-792082-6
非凡で等身大で表現者で少女。
瑞々しいときめきやこころの揺らぎを描いて少女まんがの地平を拓いてきたくらもちふさこ。その半世紀にわたる燦たる画業──
美麗イラスト500点以上を掲載! くらもち作品の鮮やかな色彩を再現すべく、特別なインクをセレクトして印刷しました。かつて少女だったあなたへ、そして今も少女のこころを持つあなたへの一冊です。 集英社
透明感のある肌、目にもまぶしいショッキングピンク、2色印刷の朱を活かしたストーリー展開……背景と前景を別々に描き、製版で合成する想定で描かれた本文カラーや扉の数々は、くらもち先生自身が「私にとってのゴール、完成形は、雑誌として印刷されたもの。原画はその“もと”でしかないの」と言う通り、原稿を受け取った編集者・デザイナー、製版担当者をも巻き込んだ「総合芸術」として花ひらく。『天然コケッコー』では、総天然色の美しい自然をコピックで映しとり、CGの時代になると3D表現も組みあわせ、不思議の世界へと読者を誘うイラストが多数制作されるように。こうして、作風も、画材も、ツールもどんどん変化していく理由を「飽きっぽいから」とくらもち先生は語るが、どうもそれだけが理由ではないようだ。

©くらもちふさこ/集英社
↑『冬・春・あなた』より本文カラー。2枚の原稿が合成され、1ページになる(撮影:細川葉子)

©くらもちふさこ/集英社
↑『チープスリル』本文見開きページ。デパートのロッカールームで、女性スタッフが雑誌を観ながらうわさ話に花を咲かせる様子を描く(撮影:細川葉子)

©くらもちふさこ/集英社
↑『天然コケッコー』扉絵。子どもたちが豊かな秋の実りを妄想する。写真のようだが、よく見るとコピックで描かれている(撮影:細川葉子)

©くらもちふさこ/集英社
↑『月のパルス』扉絵。不思議な世界で“リンク”する少女の背後に、光の帯が踊る(撮影:細川葉子)
原画集「THEくらもちふさこ」には、ふたつの「花火の絵」を掲載している。

©くらもちふさこ/集英社
ひとつは初の連載作品となった『おしゃべり階段』(1979)の扉絵。
もうひとつが『天然コケッコー』の映画化に合わせて執筆された『天然コケッコー特別編』(2007)の扉絵。

©くらもちふさこ/集英社
CG合成された『天然コケッコー』のイラストは、くらもち先生お気に入りの1点でもある。画集にも展覧会会場にも掲示されるセルフコメンタリー「KURA VOICE」によると…
『おしゃべり階段』で花火を描いた表紙があるのですが、頭にある花火の光がどうしても描ききれず、惨敗。デジタルの時代となり、イメージ通りの花火と組み合わせることができ、長い年月を経てようやく満足しました。『糸のきらめき』の最終ページには少しだけ白いコマを入れてあるのですが、これも光を表現したものです。この頃から光を描いてみたいと、まんがで光をうまく表現することは出来ないだろうかと、ずっと意識してきました。

©くらもちふさこ/集英社
↑『糸のきらめき』レコードジャケットイラスト。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」で、少女まんが家・秋風羽織のアトリエに描かれた巨大壁画の原画でもある(撮影:細川葉子)
20年以上心に秘めた、イメージ通りの花火。今でもずっと描きたいと思い続けている光。『いつもポケットにショパン』では、絵には描けない“音”を描いた。そう、くらもち先生が描こうとしているのは、言葉にもならない「心のふるえや、きらめき」そのものだ。

©くらもちふさこ/集英社
↑『いつもポケットにショパン』コミックス1巻カバーイラストのアップ。キラキラ輝くホワイトは、麻子の幸せな記憶を象徴するモチーフのひとつ(撮影:ハナダミチコ)
創作する際は、物語を三次元の実写・音声付で“見ている”と言う、くらもち先生。
その時“見えた”きらめきを読者にとどけるため、様々な画材を駆使して彩り、二次元にパッケージしようと試み続けているのではないだろうか。
無垢な少女が感じる<ときめき>を描くため、あくなき挑戦を続ける表現者・くらもちふさこ。原画展では、50年に及ぶくらもちふさこ先生の試行錯誤の歴史が時系列で体感できる。3月30日からは第3期、4月27日からは第4期展として、カラーイラストを総入れ替えして展示。すでに会期が終了している1期についても、集英社オンラインの独占アーカイブで写真・動画をこちらからぜひ。
しかし、原画の持つ迫力は、実物の目の前に立った者だけが感じられるスペシャルなもの。時間に余裕があれば、ぜひご予約のうえ、弥生美術館まで足をのばしてほしい。

©くらもちふさこ/集英社
くらもちふさこが50年追い続ける 少女まんがの「きらめき」
くらもちふさこ展アーカイブ 第1期
©くらもちふさこ/集英社
くらもちふさこ展Ⅰ期アーカイブ動画をご覧になる方は上のサムネイルをタップ(クリック)!
Ⅰ期アーカイブ写真ギャラリー(写真多数!)をご覧になる方は、下の「すべての画像を見る」をタップ(クリック)!
―――関連情報―――
―――公式SNS―――
くらもちふさこ展公式Twitter @Kuramochi_ten
「THEくらもちふさこ」「くらもちふさこ展」制作秘話を不定期にツイート中。時々くらもちふさこ先生も登場します。

©くらもちふさこ/集英社
【デビュー50周年記念 くらもちふさこ展 その2】へ続く
※その2は4月5日18時に公開します
取材・文 ハナダミチコ
くらもちふさこ展アーカイブ 第1期ギャラリー

©くらもちふさこ/集英社
弥生美術館外観

©くらもちふさこ/集英社
◆1階◆1階展示室エントランス

©くらもちふさこ/集英社
part1 『おしゃべり階段』

©くらもちふさこ/集英社
part1 『いつもポケットにショパン』

©くらもちふさこ/集英社
part1 『ハリウッド・ゲーム』

©くらもちふさこ/集英社
part1 『いろはにこんぺいと』

©くらもちふさこ/集英社
part1 『いろはにこんぺいと』

©くらもちふさこ/集英社
part2 『東京のカサノバ』

©くらもちふさこ/集英社
part2 『東京のカサノバ』

©くらもちふさこ/集英社
part2 『A-Girl』

©くらもちふさこ/集英社
part2 『千花ちゃんちはふつう』

©くらもちふさこ/集英社
part2 『海の天辺』

©くらもちふさこ/集英社
part2 『海の天辺』

©くらもちふさこ/集英社
初期作品

©くらもちふさこ/集英社
初期作品

©くらもちふさこ/集英社
初期作品

©くらもちふさこ/集英社
◆2階◆part2 『アンコールが3回』

©くらもちふさこ/集英社
part2 『おばけたんご』

©くらもちふさこ/集英社
リブート作品:『東京のカサノバ』

©くらもちふさこ/集英社
「コーラス」表紙

©くらもちふさこ/集英社
part3 『百年の恋も覚めてしまう』『α』

©くらもちふさこ/集英社
part3 『月のパルス』『asエリス』

©くらもちふさこ/集英社
part4 『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
part4 『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
part4 『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
part4 『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
part4 『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
part4 『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
part5 『駅から5分』『花に染む』

©くらもちふさこ/集英社
part5 『駅から5分』『花に染む』

©くらもちふさこ/集英社
寄せ書きボード

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『おしゃべり階段』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『おしゃべり階段』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『おしゃべり階段』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『おしゃべり階段』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『おしゃべり階段』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『おしゃべり階段』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『いつもポケットにショパン』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『いつもポケットにショパン』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『いつもポケットにショパン』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『いつもポケットにショパン』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『ハリウッドゲーム』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『ハリウッドゲーム』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『ハリウッドゲーム』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『ハリウッドゲーム』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『いろはにこんぺいと』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『東京のカサノバ』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『東京のカサノバ』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『東京のカサノバ』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『A-Girl』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『千花ちゃんちはふつう』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『海の天辺』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『海の天辺』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:「別冊マーガレット」表紙

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『タイムテーブル』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:画材

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『アンコールが3回』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『チープスリル』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『チープスリル』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:「コーラス」本誌

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『百年の恋も覚めてしまう』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『α』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『月のパルス』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『asエリス』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『天然コケッコー』方言資料

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『天然コケッコー』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『駅から5分』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『駅から5分』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『花に染む』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『花に染む』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:『花に染む』

©くらもちふさこ/集英社
見どころクローズアップ:メッセージボード

©くらもちふさこ/集英社
館内階段

©くらもちふさこ/集英社
館内ミュージアムショップ

©くらもちふさこ/集英社
館内の様子

©くらもちふさこ/集英社
館内の様子