
「パイパンという言葉は認知度が高くない」と編集者さんから指摘が。「報われないことも含めて楽しんでいるかも」紗倉まなが新作小説に投影する恋愛観
作家でAV女優の紗倉まなが、3年ぶりとなる最新小説集『ごっこ』を刊行した。本作は、曖昧な関係性に振り回される女たちの不器用すぎる恋を描いた恋愛小説。作中に登場するエピソード秘話や自身の恋愛観を聞いた。
ままならない恋愛にも価値を見出せるか
ふとしたドライブが小説のアイデアに
――『ごっこ』収録の3作品(表題作他2作品は『見知らぬ人』『はこのなか』)、それぞれの主人公と、作者ご自身のパーソナリティに重なる部分はありますか? 例えば表題作『ごっこ』の主人公ミツキの運転の仕方など。
ミツキの感情が爆発する部分や、車のスピードを出してしまう部分は、私自身思い当たることがありますね。といっても、ミツキほどスピードが出せるような車には乗っていなかったんですけど(笑)。
短気だったり、相手に対して意地悪な思いをすぐに抱いてしまう気質は少し似ています。特にミツキみたいに、(自分の感情を)言い出せないけど言い出したら止まらないところだったり、(パートナーから)都合のいいように丸め込まれて、最初は黙っているところだったり。
――運転シーンの描写から、ご自身もかなり運転がお好きなのかな、と感じたのですが。
車の中って密室空間で、自分の部屋みたいな感じがするんです。自分が住む部屋は動かないけど、車は「動く個室」みたいなもの。パーソナルスペースが守られていて、なおかつ景色も見られる。そういうところがすごく好きです。
自宅に一人でいるのに、「自分一人の時間が欲しい」と感じることがあるんです。でもよくよく考えたら「家にいるのに自分の時間が欲しいって、なに?」って自問しちゃって。だから車を運転して息抜きすることは多いですね。

――特に目的地もなくドライブすることはありますか?
それもありますし、下調べして遠出して何かご飯を食べに行って、帰って来たりもします。あとは最近犬を飼い始めたので、ドッグランに連れて行くとか、そういうのでちょこちょこと理由を付けて、ドライブすることが多いですね。
――運転中に小説のインスピレーションが浮かんできたりしますか?
ふと浮かんできたりしますね。それこそ『ごっこ』も、東名高速の「70代を高齢者と呼ばない大和市」とか、連続して続く街のPRを兼ねた横断幕を見たときに、「一人で見る分には何とも思わないけど、渋滞に巻き込まれてケンカしているカップルが見たら、イライラする標語なのかもな」とか思ったり(笑)。
そういう風にアイデアを膨らませて、何か書いてみたいな、と感じることがあります。
一方通行の恋愛でも自分次第で楽しめる
――今回の作品のテーマは「ままならない恋愛」ということですが、どんな想いを作品に込めましたか?
よくありがちなのかなと思います。自分が好きだと思って付き合っているけど、実際は別れるのが面倒で惰性で付き合っていたり、恋人なんだけど、傍からは「それって都合よく付き合わされているだけだよ」と見られてしまう関係性だったり。
誰かから「二人はどういう関係なの?」と尋ねられてもなんて答えればいいのかわからない、みたいな。
タイトルにもなった『ごっこ』というような関係性の人って、実際にいるのではないかと考えていて。恋人や友達や夫婦という、わかりやすい言葉の枠からこぼれおちた人たちなのですが、3作品ともに、そういう一方通行の感情をほとばしらせて相手から振り払われてしまう恋愛の具合を書いてみたいなと思って。
報われないというか成就しないというか、あんまり幸せな感じがしない人たちが出てくる話になりました(笑)。
――そういう恋愛に対して、「もっとわかり合える恋人に巡り合えるはず」という希望を持っているのか、もしくは「他者とはどこまでもわかり合えない」というような諦めの境地なのか。紗倉さんはプライベートではどういうマインドをお持ちでしょうか?
両方あるかもしれないですね。すごく頑張って相手に寄り添っても、やっぱりわかり合えない部分はありますし。
でも、わかり合える関係性を築きたくてそれを目指して努力するわけですから。どちらも捨て難いというか、両方の矛盾した思いを抱いて接しているのだと思います。
この作品のように、一方的な恋愛感情によって振り回される人物を書くときは「報われないことも含めて(自分が)楽しんでいるのかな」と思います。
「鼠蹊部」という言葉

――小説内に「鼠蹊部(そけいぶ)」という表現が出てくるのですが、「鼠蹊部」という言葉を小説で読むのは珍しいな、と興味を惹かれました。単語や表現などに関して、ご自身ならではのこだわりなど、意識されていることはありますか?
私がAV女優という職業をしているのもあって、鼠蹊部という言葉は挨拶言葉くらいに捉えていたというか自然と出た部分もあると思います(笑)。
あと、初稿では『ごっこ』の最後のシーンの台詞で「パイパン」という言葉を書いたんですけど、「パイパンは認知度があまり高くないかもしれない」と編集者さんからご指摘いただいて、たしかに、と思って。
パイパンは封印して、「毛を剃る」という具体的な言葉に変えたり、体を表す言葉や状態を表す言葉でも、カタカナはあまり使わないようにしました。
編集者さんとそういうやり取りを真面目にしているときに、自分はかなり職業病に侵されていて、聞きなじみのある、日常生活でもよく使う言葉だと思っていても、世間からすると異質な響きだったりするんだろうな、と自覚しましたね。
――そういう言葉にあまり触れたことがない読者の方にも届けたい、という気持ちでしょうか?
そうですね、一回ググらせたりする手間を掛けさせてしまうと、流れを止めちゃうな、と思って。なるべくみんなが知っている言葉を使うことは意識しました。
――意識されている他の作家さんはいらっしゃいますか?
意識ではないんですけど、ミーハーかっていうくらい、書店さんで大きく展開されている本は必ず手に取ったり、評判がいい本にはすぐに飛びついて読みこむ派なので、大好きな作家さんばかりで。
読んだ本の感動を引きずって、すぐに影響されるので、読後「こんな素晴らしい作品をいつか書いてみたい」という思いを繰り返してます。

取材・文/佐藤麻水 撮影/浅井裕也
『ごっこ』
紗倉 まな

2月22日発売
1,650円(税込)
208ページ
978-4065304471
こんなことに付き合ってあげられるのは、自分だけだと思っていた。
夫婦ごっこ、恋人ごっこ、友達ごっこ……。曖昧な関係に振り回される女たちの、不器用すぎる恋。
野間文芸新人賞候補作『春、死なん』につづき、注目作家が「ままならない恋愛」を描く最新小説集。
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