すべての肩書がとれたピエール瀧が大切にする表現者としてのマナー。「ムダにするのは、時間かお金かのどっちかですね。両方はやりすぎです」
夜の東京23区を徘徊した記録を収めた書籍の第2弾『ピエール瀧の23区23時 2020-2022』を刊行した、ピエール瀧。書籍の裏話に加え、YouTubeやネットメディアなどの場を含む近年の活動に対する思いも聞いた。(前後編の後編)
夜の徘徊、それは万物への愛
――瀧さんは今回の書籍のあとがきで、前作のときと比べて自分も東京も変わっていて、一緒に歩くメンバーの状況も変わっていて、それらの掛け合わせで生まれるものが面白いというお話をされていて。変化に対してポジティブでいられるのもいいなと思いました。
まあ、仕事の内容や住む場所とか環境が変われば人は変わっていくし、世の中も変わっていくわけで。出家でもしないと、変わらないって難しいと思いますよ。出家して毎日変わらないように生活していても、考え方が変わるでしょうし。
世界規模で同時に全部のことが変わっていって、すべては見られないですから。空き缶がぺちゃんこになってるとか、なんでここにランニングシャツが落っこってんだろうとか、あそこの柿の実が1個だけなってるなとか、そういう一瞬一瞬を楽しむっていう……だから、愛ですかね。今、話しながら、まあまあキレイにまとまりそうだから、愛って言っちゃえって(笑)。

――(笑)。あの、何に対する愛ですか。
すべてに対する愛。森羅万象。
――落っこちてるランニングシャツにも(笑)。
愛ですね。落っこちてくれてありがとうって(笑)。ひとりで味わいながら歩くのもいいんですけど、気の合う仲間と歩くと、「あれ、どういうことだと思う?」「上から落っこちてあそこに来たんじゃないですかね」とか話せるから、頭の違う部分が刺激されて面白いですよ。構えを解いて歩いてますから、すんなり受け入れられて。
――それが愛、っていうことですね。
そう。結局、愛なんでしょうね。
――なんでしょうね(笑)。
はい。見出しになるやつですよ。「結局、愛なんでしょうね」(笑)。
自分をタレントだとは思ってなかった
――環境が変わられたこともあると思うんですが、電気グルーヴの活動と同じように、瀧さんのソロの活動はよりソリッドになったのかなと。以前はいわゆる「タレント」といわれるような活動も多かったわけですけど、YouTubeやこのコンテンツを掲載しているnoteだったり、今のテレビなどのメジャーなメディア以外での活動に関する手応えや自由度については、どう感じていますか?
テレビに出たりラジオをやったりCMに出たり、そういう部分のことをおっしゃってるんだと思いますけど、それももちろん楽しんで、仕事という概念半分、「行ってみてから考える」っていう概念半分でやってきたんですよね。
そういう活動をする人を「タレントさん」とくくるほうが便宜上いいこともあるし、包み紙としてもわかりやすいからそうなりますけど、自分のことをタレントだとは思ってなくて。
だから、葛飾区の水門を見て「へえー」って言ってるのと、CMの撮影現場に行って「へえー」って言ってるのは、感覚的にはほぼ一緒です。相手方のオーダーが入るかどうかの違いがあるだけで、気分的には全然、変わらないですね。

――なるほど。取り組む姿勢というかスタンスとしては同じわけですね。
そのつもりでいますね。でも、今やっているユアレコ(YouTubeチャンネル「ピエール瀧 YOUR RECOMMENDATIONS」)も、この「23区23時」も電気グルーヴの活動もそうですけど、自分たちで考えた企画に応えてくれるスタッフがいて、フットワーク軽くできている状況があって。誤解なく伝えることができるっていうのはあるかと思います。誤解って、決して悪いことでもないんですけどね。
今までいろいろなところで、僕の肩書が「ピエール瀧(俳優)」とか「ピエール瀧(タレント)」ってなっていることが多くて。ミュージシャンって書かれることはあまりないんですけど(笑)。
そういう僕をカテゴライズするものが全部とれたので、その上で、やれることをやるしかないっていうか。幸い、いろんなことを持ちかけると「やりましょう」って言ってやってくれる人が周りにいるので、その間は、今みたいにやっていこうかなと思っていますね。
「この本を面白いと思える瞬間が人生のどこかにあると思う」
――ユアレコでも、自分はただ旅行しているだけだから楽しいとおっしゃっていたり、この企画でも、瀧さん自身が散歩を楽しんでいると思うんですけど、そういう中でも、受け手を楽しませるということは意識されていらっしゃいますよね。
前提としてアウトプットがあるわけですから、はっきり伝えたいものがあるとか、自分をわかってほしいわけではないですけど、状況を細かく説明したりして受け手のことを考えるのは、マナーっていう感じですね。

――会った人から言葉を引き出して読み物として楽しませる、瀧さんのインタビュー能力もすごいと思います。
そうですか、ありがとうございます(笑)。それだったら嬉しいんですけど、この書籍に関しては、この分量ですからね(笑)。
――各区のパートの最後に毎回の歩数がありますけど、一晩で15,000歩ってかなりすごいですよね。
20,000歩超えたこともありますね。ただ、これでもかなり抜粋してるんですよ。noteに掲載しているものは、歩いた記録の中から食べられる実を選んで、盛りつけたフルバージョン。そこからもうちょっとシェイプしたものを収めたのがこの書籍なので。全部載せたら、この厚さで2冊になっちゃいますから。
でも、変化っていう話がありましたけど、今はこの本を手に取らなかったとしても、自分が変わってきたり環境が変わってきたりする中で、「これ、面白いな」って思える瞬間が人生のどこかであると思うんですよね。そういう時にうまくこの本が、その人の前に現れてくれるといいなと思いますね。
次は赤字覚悟で全47都道府県の徘徊へ!?
――瀧さんは海外含めていろいろなところに行ってきたと思うんですけど、まだ行ったことないところで、徘徊してみたいところはありますか?
海外だったら、南米は行ってみたいですよね。南米ってけっこう、覚悟がないと行けないじゃないですか。南半球はあまり行かないので、興味がありますね。
――今度、この夜の散歩の企画をするとしたら、また23区を徘徊するのか、それとも、場所を変えてみるというのもあり得ますか?
全然、23区の3周目もやぶさかではないですし。県庁所在地だけを回るのも面白そうですね。全部で47、ありますから、23どころの騒ぎじゃないですね。23区回るのに2年かかってるから、4年ぐらいかかるっていう(笑)。
ただ地方に行くとなるとコストもかかりますから、雑誌とかで連載させてもらえたら1番いいですけどね。スタッフ含めて長崎県に行くとか、いくらかかるんですかって話になっちゃうから。
――それもまたいいですね。コストとか効率度外視でやってほしいです。
いやいや、徘徊は赤字になってまでやることじゃないですよ(笑)。
――(笑)確かに、時間を贅沢に使うからこそできることですよね。
ムダにするのは、時間かお金かのどっちかですね。両方はやりすぎです(笑)。
取材・文/川辺美希 撮影/南阿沙美
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