2003年の「ロードショー」に『ハリー・ポッター』旋風が吹き荒れた。前年12月号のダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソン、ルパート・グリントのスリーショットにはじまり、2003年はラドクリフが2回、エマ・ワトソンが1回表紙を飾っている。
短期間に1つの映画が4度も表紙を飾るのは「ロードショー」にとっても極めてまれで、それほどまでに『ハリポタ』ブームは圧倒的だったのだ。

『ハリポタ』人気にオーランド・ブルームの登場で盛り上がる洋画界。だが、日本映画の製作体制の劇的変化が、80年代から続いてきた“洋高邦低”を脅かし始める…
人気作品とスターがいれば安心だった洋画マーケット。しかし、1本の大ヒット邦画が、製作・興業・宣伝のあらゆる面で、日本の映画シーンを変えることになった!
ロードショーCOVER TALK #2003
ハリー・ポッター旋風到来

600人以上のスターのプロフィールを集めた、1月号の定番付録「スター大名鑑」の表紙も、ラドクリフのイラストだ
©ロードショー2003年1月号/集英社
J・K・ローリングによる同名の原作シリーズ第1巻は1997年に英米で出版され、たちまちベストセラーとなる。魔術や怪物などのファンタジーの要素を、誰もが共感できる学園ドラマに落とし込んだところが秀逸で、主人公の成長、善と悪との戦いや、作り込まれた壮大な世界観など、子供のみならず大人をも魅力するのに十分な魅力を備えていた。英国文学賞児童書ブック・オブ・ザ・イヤーほか、欧米各国の文学賞を受賞。
その後、1年ごとに新作が発売されるが、児童文学の枠を離れたヒットシリーズとなるターニングポイントが1999年発売の第3巻『アズカバンの囚人』だと言われている。奇しくも、同年『ハリー・ポッターと賢者の石』の日本語版が発売。話題のベストセラー小説が日本上陸を果たしたのだ。
2001年、映画版第1弾『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)が世界公開されると、映画と小説の相乗効果を起こしていくことになる。今度どんな展開になるのか誰にもわからないため、新刊が発売されるたびに書店に読者が殺到するという一大イベントとなった。21世紀の古典となる同シリーズをリアルタイムで体験できた人は幸せだった。
オーランド・ブルーム人気も晴らせない洋画の暗雲
2003年の初登場で注目すべきは、オーランド・ブルームだ。『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のレゴラス役でブレイクした。ドワーフやホビット、オーク、ゴラムなど決して美しくないキャラクターたちのなかで、エルフの弓矢の達人はひときわ際立っていた。そのまま『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』(2003)で主役のひとりに抜擢。

“オーリー”は、最後の“誰でも知ってるハリウッド・スター”だったかもしれない
©ロードショー2003年9月号/集英社
ティーン・ピープル誌で「25歳以下のもっともホットな25人」に選ばれ、端正な美貌と親しみやすい濃茶の髪と目で、日本でも人気が出た。イケメンをスターに育てたい「ロードショー」が放っておくはずもなく、ローテーション入りが確定する。
それにしても2003年には、前述のシリーズの第2作目である『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』(2002)や『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)のほかにも、『マトリックス リローデッド』(2003)と『マトリックス レボリューションズ』(2003)『ターミネーター3』(2003)『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(2003)など人気シリーズの最新作が大挙して封切られている。人気の衰えない『マトリックス』のキアヌ・リーヴスも表紙に2度登場だ。
だが、これらの大作を押しのけて、邦画の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2:レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003)が興行収入173.5億円という大記録を打ち立てて、2003年のトップとなっている。
これがきっかけで、テレビ局主導の邦画作りが加速する。テレビ局が映画製作に参画、自社メディアで宣伝を繰り返し、観客を動員するパターンが確立するのだ。
テレビを通じた映画宣伝といえば、CMを購入したり、番組で取りあげてもらうために取材をセッティングするのが通常だった。だが、テレビ局なら自社メディアを好きなようにジャックできる。
かくして、一般視聴者の目には新作の洋画情報が届かなくなっていく。80年代中盤から続いていた「洋高邦低」時代の終わりが始まったのだ。
◆表紙リスト◆
1月号/ダニエル・ラドクリフ 2月号/エマ・ワトソン 3月号/イライジャ・ウッド 4月号/ダニエル・ラドクリフ 5月号/ニコール・キッドマン 6月号/レニー・ゼルウィガー&キャサリン・ゼタ=ジョーンズ※両者初登場 7月号/キアヌ・リーヴス 8月号/キャメロン・ディアス 9月号/オーランド・ブルーム※初登場 10月号/アンジェリーナ・ジョリー 11月号/シャーリーズ・セロン 12月号/キアヌ・リーヴ
表紙クレジット ©ロードショー2003年/集英社
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