「負けて悔しい、というのがよくわからないんです」ニッポンの社長が語る“お笑い賞レース論”
2020年より3年連続でキングオブコント決勝に出場しているニッポンの社長。「今回がラストチャンス」との思いで挑んだ昨年は、まさかの最下位という結果に終わったが、ネタ作り担当の辻は「悔しさはない」「賞レースで負けて悔しいというのがよくからない」と話す。その理由とは?
ニッポンの社長♯2
「(出番順で)1番手を引いたら、ほぼほぼ終わり」

ニッポンの社長。吉本興業所属。2013年結成。結成前から私生活で仲が良く、ピン芸人として活動していた辻(左)に前コンビを解散したばかりのケツ(右)が声をかけてコンビを結成した。今年4月より東京を拠点とすることが発表された
——今年は、ファイナリスト発表のとき、大阪吉本組の中でただ一組だけ、別室で待機していたそうですね。
辻 (落ちて)ショックを受けているところを見られたくなかったんです。2年連続で決勝に行ってたんで、今年あかんかったら、そのぶん、ショックが大きいじゃないですか。
——行って当たり前、ということですよね。
辻 M-1やったら、行けたら超嬉しいという感覚で待てると思うんです。でもキングオブコントは2回目の時から「行かな嫌」という感覚になっちゃいましたね。今回は前回以上にそれが強かった。
ケツ 僕も決勝進出が決まって「よっしゃ!」というよりは「よかったぁ」という安堵の方が大きかったですね。
——結果を待つのって、本当に辛いですもんね。
辻 「頼む……」っていう感じでしたね。しかも、僕らは決勝に行ってからが本当の勝負じゃないですか。決勝に行けただけで喜べた時代が、今、つくづくよかったなって思いますもん。できるなら戻りたい。
まだ一度も決勝に行けてないときって、実はいちばん希望のある時期じゃないですか。初出場時がいちばん優勝のチャンスは大きいわけですし。決勝は行けば行くほど、かかる負荷が大きくなりますね。
——経験値によるアドバンテージよりも、鮮度によるアドバンテージの方がはるかに大きいというのが、お笑い賞レースの特徴ですよね。
辻 決勝が決まると、その後、すぐに出番順を決めるクジを引くんですけど、そこで1番手を引いたら、ほぼほぼ終わりです。そこで1番以外のクジを引いて、初めて一息つける。ファイナリスト発表と、その後のクジはセットなんです。
「自分たちが負けたとも思っていないので」

——今回は9番手、ビスケットブラザーズの後でしたね。
辻 最悪ではないけど、最高でもなかった。キングオブコントの歴史を振り返っても、6、7、8番手あたりがいちばん有利。9、10番手まで遅くなると、お客さんも疲れてきて、やや尻すぼみになるイメージがある。
あと、ビスブラ(ビスケットブラザーズ)の後というのも、嫌な感じはありましたね。特に今年のビスブラのネタは、2人がブリーフ姿になったりするので、見た目が派手やった。そのぶん、自分たちのネタが地味に見える可能性があったんで。
ケツ 僕もビスブラの後は嫌でしたね。ビスブラとはいつも同じ劇場でやっていて、めちゃめちゃウケているのを見ているので。その余韻が残る中でやることになるんかな、と。普段は何とも思わないんですけど、賞レースになると話はぜんぜん変わってきますよね。
——今回のキングオブコントには、ニッポンの社長とビスケットブラザーズの他にロングコートダディも出場していて、今の大阪吉本のコントシーンを代表する3組が初めて顔をそろえた大会でもありました。
辻 それも嫌やったんですよ。ここと戦わなあかんのかって。仲間ですけど、単純に強力なライバルじゃないですか。この3組のうち誰かが優勝するやろなと思っていたんで。
——最終的にビスケットブラザーズが優勝して、辻さんの予感は的中しました。大阪の力を見せられたという気持ちもあるとは思うのですが、やはり悔しいものですか。
辻 いや、別に悔しさはないですね。自分たちが負けたとも思っていないので。やってることも、別に間違ってない。優勝して、ええなとは思いますけど。お笑いの賞レースで負けて悔しいというのがよくからないんですよ。スポーツやったらわかるんですよ。格闘技とか。誰が見ても負けじゃないですか。ただ、お笑いの勝ち負けは、どこまでも主観なので。他人の評価で負けて、悔しいと思ったことはないですね。
「優勝できなかったことを想像したら吐きそうになる」

——辻さんがキングオブコントのドキュメンタリーの中で「優勝できなかったことを想像したら吐きそうになる」と話していました。今大会は心境的には、それくらい追い詰められていたわけですね。
辻 優勝するには、今回がラストチャンスかなと思っていたので。3回目というのは回数的にも、いったんそれぐらいの感じになるじゃないですか。3回目の出場で、もう古顔になってくる。
——3回以上の出場で優勝しているのは過去に空気階段とジャルジャルの2組しかいないんですよね。
辻 だから、決勝が決まったときは、これは絶対に優勝せなあかんと思いましたね。
——ちなみに、漫才とコントでこれだけコンスタントに結果を出しているコンビはニッポンの社長とロングコートダディが双璧だと思うのですが、コントと漫才の比重はどんな感じでやっているのですか。
辻 単独ライブは全部、コントです。なので、あくまでコントがメイン。漫才は、いい意味での、ガス抜きみたいな感覚ですね。
——大阪でコントのみというスタンスは相当、異端視されると聞きましたが、2人も、大阪にいる以上、漫才はやらざるを得ないというのもあったのですか。
辻 もともと、そういう感じで始めました。やらなあかんのかな、って。で、始めたらそれが楽しくなってきて。
——ガス抜きで、あれだけのネタができるわけですね。漫才ネタも本当に振り切っていますよね。架空バスケのネタとかも最高でした。会話がほぼないんですけど、会話が聞こえてくるかのようなネタでした。
ケツ よく見てくださっていますね。

——でも、あれで落ちたんですよね。何年か前の準々決勝で。
辻 あれで落ちました。やっぱりM-1は、しゃべらんと合格せえへんねんというのがようやくわかってきました。
取材・文/中村計 撮影/撮影/矢橋恵一
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