新生活が始まる4月。今年も多くの人が進学や就職に合わせて居を移したことだろう。
日本では6割ほどの高校生が大学に進むが、その中の半数以上は他県の大学に進学している。大学の数は地域によって偏りが大きく、東京都には143の大学が集まる一方で、島根県や佐賀県には2つしかない。自分の県に行きたい大学・行ける大学が見つからない場合、他県の大学を選択肢に入れることになる。
大学は入試の難易度だけでは決められない。学びたい分野、通学の費用、帰省の手間……。さまざまな条件を考えながら受験する大学を選ぶことになる。
こうした個々人の選択が集まった結果、それぞれの地域ごとに「進学圏」と呼べるようなまとまりができてゆく。今回はそうした進学流動の地域性を、統計を使った色分け地図から見てみよう。
なお、本稿で用いる「学校基本調査」(文部科学省)のデータは、各生徒の居住地ではなく出身高校の所在地によって集計されたものである点に注意されたい。
学生たちはどこに向かう? 統計地図から見る進学の地域差
4月、新生活の季節。日本では高校生の約6割が大学へ進学する。進学先は地元? お隣? それとも東京? 学生の移動を都道府県ごとに色分けし、「進学圏」の姿とその背景を探る。

図1 自県以外で最も多い大学進学先
この地図は、それぞれの県にある高校から、自県以外でどの県の大学に進学する人が最も多いかを示したものである。いくつかエリアが分かれており、一般的な地方区分と重なるものもあれば、そうでないものもある。
最も広い範囲から人を集めるのは、やはり東京都だ。関東一円だけでなく、東海や東北へもその勢力圏を広げている。
関東に至っては、群馬県以外はすべて自県よりも東京へ進学する人のほうが多いという有様だ。宮城県・愛知県・福岡県といった各地方の中心県の場合、その地方に他に有力な県がないために2番手が東京になることが多い。他県との距離が遠い北海道や沖縄県の場合は、どうせ他県に行くなら中途半端に近い場所よりも東京を選ぶ人が多いということだろう。
東京都に次いで進学圏が広いのが大阪府で、関西に加えて中四国からも学生を集めている。大阪大学には約1万5000人の学部生が在籍しており、これは国公立大学では最も多い(院生を含めると東京大学が最多)。また、大阪市立大学と大阪府立大学の統合により2022年4月に開学する大阪公立大学は、学部入学定員数では国公立第3位となる。
そのほか、宮城、愛知、広島、福岡など、各地方の中心県が近隣から学生を集めている。しかし、広島は大阪と福岡に挟まれているせいか、中四国の中でも島根と愛媛の2県でしか最多となっていない。北陸は進学傾向が各県によりバラバラで、上越新幹線で東京とつながる新潟から京都に近い福井まで多様な進学先が拮抗している。
地元に残る人が多い県は……?
愛知県は東京と大阪に挟まれているために、岐阜県と三重県の2県からしか最多進学先となっていない。しかし、愛知県は自県への進学率で言えば東京都よりも高い71.3%となっており、これは全国でも1位だ。愛知県は県内就職率も高く、教育・雇用共に自県内で完結させることができる安定した県と言える。
自県進学率が最も低いのは奈良県で、わずか14.3%。8割以上は大阪や京都など他県に進学する。奈良県には東大寺学園や西大和学園など全国屈指の進学校が集まっており、東京の難関大学に進む生徒も多い。自県進学率の低さは教育熱の裏返しなのかもしれない。

図2 自県進学率
学生が流入する県、流出する県
次に、進学流動を流入と流出の差から見てみよう。

図3 都道府県ごとの進学流動(対数グラフ)
このグラフは縦軸に流入数、横軸に流出数をとったもので、中央の線より左上にあれば流入超過、右下にあれば流出超過であることを示す。
流入数・流出数ともにトップなのは東京都で、差し引きで+7万4660人となっている。これは群馬県渋川市の人口と同じくらいの規模だ。
東京に次いで差し引きの流動が多いのは京都府で、約1万9000人の流入超過となっている。京都府は人口当たりの大学の数や学生の割合において全国1位となっており、まさに学生の街と呼ぶにふさわしい。
差引流動がプラスになっているのは、東京、京都のほか、大阪、愛知、福岡、宮城、神奈川、石川、滋賀の計9都府県である(多い順)。それ以外の38道県はすべて流出超過であり、進学先が一部の地域に偏っていることが分かる。
差引流動が最もマイナスなのは静岡県で、茨城、埼玉がそれに次ぐ。東京に近いことが裏目に出た結果と言えるだろう。
ここからは、いくつかのタイプに分けながら都道府県ごとに進学流動の動向を解説する。今回は差引流動と所在地域を基準として4つにカテゴライズした。
以下、①全国から学生を集める地域、②地方の中心県、③関東・関西の周辺地域、④地方の周辺地域の順にそれぞれの状況を見てみよう。
タイプ①:全国から学生を集める地域

図4 進学者流動(東京都・京都府)
先述の通り、流入超過のトップ2は東京・京都であり、ともに全国から多くの学生を集めている。全体的な数で見ると東京のほうが圧倒的に大きいが、2都府の間の流動を見ると、京都から東京に進学する人よりも、東京から京都に進学する人のほうが多い。もっとも、人口差を考えればなんら不思議な現象ではない。
東京・京都のほかでは、大阪・神奈川がこれと近い傾向を持つ。愛知は都市規模のわりに流入超過となる範囲が狭く、東海地方以外に対しては流入よりも流出のほうが目立つ。
タイプ②:地方の中心県

図5 進学者流動(宮城県・福岡県)
次は宮城県と福岡県を見てみよう。両県とも各地方の中心県であり、旧帝国大学(東北大学・九州大学)が立地している。この2県は関東・関西に対しては流出超過となっているが、それぞれの地方では多くの学生を集めており、全体としては流入のほうが多くなっている。
大学数では福岡県の34校に対して宮城県は14校と倍以上の差があるが、流入/流出比では宮城県のほうがやや高く、京都、東京、大阪に次いで流入の割合が高い県となっている。近年の人口増加を見ると地方中枢都市では福岡が頭一つ抜けているが、進学においては仙台も高い拠点性を保っているようだ。
宮城・福岡と似たような流動を示す県としては、愛知、広島、岡山、石川などが挙げられる。また、やや流出のほうが多いものの、北海道や新潟も近い傾向となっている。
タイプ③:関東・関西の周辺地域

図6 進学者流動(埼玉県・兵庫県)
地方の中心県と対照的なのが、関東や関西の周辺地域となる県だ。典型的なのが埼玉県で、全国から流入してくる学生は多いものの、それ以上に東京や神奈川への流出が多い。兵庫県も同様で、両県は全体としては流出超過の状態となっている。千葉、山梨、群馬など、関東の周辺県はおおむね同じような傾向を示す。
ただし、同じ大都市圏周辺地域でも、滋賀県では流入のほうがやや多い。京都府に対しては流出超過であるものの、大阪への流出は流入に相殺されており、ほとんどの他地方の県に対しては流入が上回る。
滋賀県には滋賀大学・滋賀医科大学・滋賀県立大学の3つの国公立大学のほか、立命館大学のびわこ・くさつキャンパス(BKC)も置かれている。ただし、現在BKCにある情報理工学部・研究科は、2024年に大阪いばらきキャンパスに移転することが決まっている。2500人近い学生が移転することになり、今後の進学流動にも影響を与えそうだ。
タイプ④:地方の周辺地域

図7 進学者流動(静岡県・沖縄県)
最後のタイプはここまで挙げた都道府県以外の多くが当てはまる。いずれも流出が流入を大幅に上回る県だ。といっても、流出超過の程度は県によってかなり差がある。
もっとも流出超過数が大きいのは静岡県で、差引で-8000人ほどとなっている。静岡県は輸送用機械や製紙、飲料(茶)など製造業が集積しており、県内総生産では全国10位と経済的には比較的安定した県である。しかし、人口当たりの大学数が少なく、何よりも三大都市圏のいずれにもアクセスしやすい立地であることが災いして、他県への流出が極めて多くなっている。
静岡県と対照的なのが沖縄県で、流入数が少ないために結果として差引流動がマイナスになっている。流入数は全国でも最下位だ。大学数自体はそれほど少ないわけではないが、いかんせん距離が離れているため、どうしても他県から進学する人は少なくなってしまう。
地域によって異なる進学状況
さて、最後にここまで説明してきた進学流動を一枚の図で見てみよう。

図8 都道府県間の進学流動
黒い矢印は都道府県間の差引進学流動を示し、色分けは流入と流出の比を表す。1以上であれば流入のほうが多く(オレンジ)、1以下であれば流出のほうが多い(水色)。ここまで見てきたように、進学流動はごく一部の都府県に集中している。
進学における中心性はおおよそそれぞれの人口規模に比例するが、関西の中心が大阪ではなく京都であったり、石川県や滋賀県が流入超過になっていたりと、ところどころ大学特有の事情が垣間見える。
今回はデータの都合上、都道府県単位でしか流動を見ることができなかった。しかし、実際はそれぞれの都道府県の中にも中心都市とそれ以外での格差が存在する。また、大学進学率自体の地域差も大きい。こうした格差は誰しもうっすらと感じることはあると思うが、具体的なデータから地図を描いてみると新たに気付くことも多い。
あなたの同級生はどこの大学に行っただろうか。
あなたの街の大学生はどこから来たのだろうか。
地図に描かれた一つ一つの矢印には、新たな生活を控えた新入生の不安と期待が詰まっていることだろう。
図版 / 重永瞬 (文部科学省「令和3年度学校基本調査」に基づいて作成)
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