2017年、ひとつのニュースが人々を驚かせた。『プレイボール2』連載開始。ちばあきおが生み出したキャラクター、谷口タカオの「その後」を漫画家、コージィ城倉が描くという。コンセプトは「何も足さない、何も引かない」。
この夢の企画はどういった経緯で実現したのだろうか。ちばあきおの息子であり、「ちばあきおプロダクション」の代表でもある千葉一郎はその意図と経緯を、著書『ちばあきおを憶えていますか 昭和と漫画と千葉家の物語』の中で、このように綴っている。
ぼくは「いまの若い世代の人たちにも父の作品を知ってほしい」と考えた。そうして『キャプテン2』『プレイボール2』のプロジェクトがスタートした。先に連載が始まったのは『プレイボール2』で、月2回刊誌『グランドジャンプ』の2017年9号から21年11号まで掲載された。『キャプテン2』は『グランドジャンプむちゃ』の19年5月号からスタートし『プレイボール2』の連載終了後は『グランドジャンプ』に掲載誌を変え、現在も連載が続いている(22年1月現在)。

「ファン1人1人には、おそらくそれぞれの〝続き“がある」~名作『キャプテン』『プレイボール』続編の誕生秘話!
野球マンガの不朽の名作『キャプテン』『プレイボール』。その物語は今も継承され、『キャプテン2』『プレイボール2』として「グランドジャンプ」で連載され、新たな読者を獲得している。本記事では作者、ちばあきおの生涯を描いた『ちばあきおを憶えていますか 昭和と漫画と千葉家の物語』から、続編誕生のエピソードを抜粋・再構成。担当編集者の証言も交えてお届けする。
あの名作の続きを、何も足さず、何も引かずに

『プレイボール2』連載開始の巻頭カラー
漫画を担当しているのは、どちらもコージィ城倉だ。新シリーズの連載をお願いした時点で城倉は、すでに多くの作品を発表していて漫画家としての評価も確立していた。しかも、野球漫画も『おれはキャプテン』『ロクダイ』『グラゼニ』(森高夕次《もりたかゆうじ》名義で原作を担当。漫画はアダチケイジ/以上、講談社)といった作品を発表している。
そんな漫画家に「ちばあきおの『キャプテン』『プレイボール』の続編を描いてくれ」という図々しいお願いをしていいものか、正直なところ思い悩んだのだが、快く引き受けてくれた。そして、城倉の筆で甦った谷口、丸井、イガラシ、近藤たちは、新たな読者を獲得することに成功した。(『ちばあきおを憶えていますか 昭和と漫画と千葉家の物語』第7章 2017~ちばあきお再びより)
『プレイボール2』第1話ができるまで
城倉本人は『プレイボール2』の単行本カバーの袖書きで「この作品は谷口くんの高3、3~4ヶ月を描くものです。(中略)こんな馬鹿でもいなかったら続きは読めなかったわけですから……」と語っている。
確かに。思い入れの深いファンを持つ名作の続編となると、リスクも大きいかもしれない。成功してもそれは本編のおかげと見られる。利口に損得を計算すると、実現しなかった企画かもしれない。
連載立ち上げに携わった、当時の担当編集者、増澤吉和(現ヤングジャンプ編集長)によると実際、決して簡単ではなかったという。連載第1話、一度は出来上がったネームを全面的に直すことになり、城倉と増澤は深夜まで話し合った。その結論は、
「ファン1人1人には、おそらくそれぞれの〝続き“がある」。
当たり前のようだが、どんなに迷っても"正解"はない。だが、そう心を決めて進めても、やはり不安もあった。情報解禁直後から、ファンの大きな期待が伝わってきた。その期待に応えられるのだろうか。しかし実際に掲載された『プレイボール2』第1話は、熱く支持されることになる。
読者の皆さまからたくさん電話やハガキもいただきました。もちろん激励、あるいは感謝のメッセージでした。『正解はない』という中で、またまだこれからどんな展開になるのかわからない中で、まずは『続きが読めるだけで幸せ』という読者がこんなにいるんだということを感じて勇気が湧きましたし、嬉しかったです(増澤編集長)
その注目度は大きく、掲載誌『グランドジャンプ』の売上までアップしたという。
「ちばあきおが描いているとしか思えない」
実はもともと増澤自身も『キャプテン』のファン。間違いなく人生で一番繰り返して読んだマンガで「魔球も必殺技もスーパーヒーローもいない、でも、だからこそ自分でもこうなれるんじゃないかと思えるキャラクターたちに惹かれ、夢中になって読んでいた」。
マンガに携わる仕事に就いた原点ともいえる、かつて担当していた本宮ひろ志に「どんな作品が好きか」と訊かれたときも『キャプテン』と即答。それがきっかけでちばあきおの長男、一郎と縁がつながり、やがて続編の企画が具体化していくことになった。
もっとも続編といっても、「『プレイボール』22巻(完結巻)の続きから」などということは夢にも考えていなかったという。もちろん一読者としては、「それ」が一番読みたい。だが、そんなことをやってのける人がいるとは思いもしなかった。
しかし城倉先生は、「それ」をやってしまった。すごい、のひと言です。まず予告用のカラーイラストをいただいた時は、ちばあきおプロダクションからお借りしてきた原稿かと思ったくらいビックリしました。「これ、本当に城倉先生が描いたんですか?」と(笑)
まるであきお先生が描いたかのような筆致を見て、どんな物語がこれから始まるのかと心からワクワクしました。(増澤編集長)

『プレイボール2』連載開始前の予告カット
『ちばあきおを憶えていますか』によると。かつてちばあきおの担当編集者だった谷口忠男から見ても「すごいよ。この城倉という人は天才だね。ちばあきおが描いているとしか思えない」と感じたそうだ。
谷口、丸井、イガラシ、近藤が高校野球で再び登場!
城倉は2019年5月号『グランドジャンプむちゃ』から『キャプテン2』の連載も開始。かつてのちばあきおと同じように『キャプテン』と『プレイボール』の連載を並行して進めることになる。

『キャプテン2』連載開始号
『キャプテン2』では、近藤キャプテンのその後が描かれた。近藤は新しい発想の練習を取り入れ、野球部に大きな「レガシー」を残す。そして猛勉強をして墨谷高校に進学。そこには墨谷二中の先輩である丸井、イガラシ、そして予備校生と野球部の監督を掛け持ちする谷口タカオがいた。物語は再び合流し、ちばあきおが生み出したキャラクターたちがここに集結する。
今後の展開について現担当編集のグランドジャンプ編集部の柳田康介副編集長はこう語る。
「『キャプテン2』に関して、長期的にどうなっていくのかはっきりとはわかりませんが、谷口が墨谷の監督となり、甲子園を狙っていますので、まずはプレイヤーではなく監督としての彼の活躍に期待したいと思っています。
絵柄やコマ割り、つまり画面を構成する要素をちばあきお先生にあれだけ寄せることができていることはもちろん『キャプテン』『プレイボール』の本質をご自身なりに解釈され、現代ということを加味したアウトプットが不自然なくできていることが、城倉先生のとんでもなく凄いところだと思います。簡単なように見えてとんでもないことをやっているな、と感じます」
ちばあきおが、世に送ったキャラクターたち。それを受け継ぎ、続きを読ませてくれた城倉について、千葉一郎は『ちばあきおを憶えていますか』の中で「"バカな依頼"を、よくぞ引き受けてくださった。感謝のひと言しかない」と書いている。
実は、漫画家ちばあきおの人生について書かれたこの本は、増澤の「お父さんのことを書いてみては?」という一言からはじまったのだそうだ。
実際に出来上がった本を見て、息子だから知る、また描けた、ちばあきおの人物にふれることができて感動したという。そして、おそらくはその死から目を背けていた時期もあったであろう、父親の人生を巡る旅を経て、作家・千葉一郎が誕生した。そのことに深い感慨を覚えた。
構成/堀田純司
前編(ちばあきおのデビュー秘話)はこちらから
ちばあきおを憶えていますか 昭和と漫画と千葉家の物語
千葉 一郎

2022年3月18日発売
1,760円(税込)
208ページ
978-4-08-781716-4
なぜ連載開始から50年経った今も、多くの読者に愛されるのだろうか。
そしてあきおは、どんな思いを込めて、それらの作品を描いていたのだろうか。
ちばあきおの長男である著者が、漫画原作者の武論尊、漫画家の里中満智子、江口寿史、高橋広、コージィ城倉、担当編集者、そしてちばてつやを始めとする千葉家の人々など、関係者へのインタビューを通して、在りし日の父、そして日本の漫画史をも描き出すノンフィクション。
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