世の中には自分の頭で考えることができず、著名人やインフルエンサーが言ったことを鵜呑みにする人が一定数存在します。当然本人は自分のことをそのように認識していません。そして、何よりこのテーマの面白い点は彼らの行動はある程度理にかなっているということです。
現代は「post-truth (ポストトゥルース)時代」と言われています。オックスフォード英語辞典を出版するオックスフォード大学出版局によると、こう定義されています。
インフルエンサーのカモが多すぎる-デマ、陰謀論、カルトをすぐに信じてしまう人の特徴
デマ、誤情報、陰謀論、カルトを本気で信じてしまう人、明らかに間違っているのにもかかわらず、それを認められない人がいる。なぜそうしたことが起きるのか? これはSNSを利用するあなたにとって他人事ではない。
30代で知らなきゃアウトなお金の授業#14
誰も正しく世界を見ることができない
「世論を形成する際に、客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的信条へのアピールの方がより影響力があるような状況」
つまり、現代においては「真実」より「信じたい物語」を受け入れる傾向が強いということです。
元々、人は確証バイアスというバイアスを持っています。これは、自分の支持する仮説や信念を検証するときにそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を集めようとしない傾向のこと。
このように信じたい情報を集める人にとってSNSはそれを加速させるツールとなります。Twitterなどでも自分の見たい情報を発信する人や似た傾向の人をフォローするため、偏った情報でタイムラインが形成されていきます。
人が本質的に持つ確証バイアスとSNSが組み合わさった結果、僕たちは見たい世界を見ているのです。
YouTubeで偏った思想に染まった芸能人
偏った意見で構成されるのはTwitterだけではありません。YouTubeも同様です。
YouTubeなどのアルゴリズムは、ユーザーを長時間サービスに滞在させるために作られています。それはとても簡単でユーザーが見たいものを見せてあげればいいので、自分と同じ属性の人が好んで見ている動画をオススメとして提案します。その動画をクリックすると、また同属性の人が見る動画がオススメに並ぶようになります。
これを繰り返した結果、非常に偏った情報で構成されたホーム画面ができあがります。このパーソナライズされていく仕組みを理解していない人は、偏った情報を「世界」と勘違いします。
俳優の高知東生さんも、かつてYouTubeの陰謀論にはまりかけたエピソードを話されていました。YouTubeで見た情報を仲間に話したところ、「情報が偏っている」と言われ、目が覚めたというのですが、同時に「楽に賢そうな気分になれた」「言い切ってる人の話がわかりやすく入ってくる」と振り返っています。

高知東生Twitter @noborutakachi より
何よりも印象的だったのは、「俺みたいなあまり賢くない人間は、単純な結論付けを言い切っている人の話が分かりやすく入ってくるんだよな。」という言葉でした。物事の複雑性を理解している人は言い切らないからこそ、言い切ってくれる人を信じたいということです。


高知東生Twitter @noborutakachi より
世の中のほとんどは
断定できるほどシンプルではない
筆者自身、政治や経済について学習を始めた時に同じような感覚に陥ったことがあるので、高知東生さんのエピソードにすごく共感できます。
学習を始めた頃、ネットを探せばかなりのフォロワー数のいる人が信じたい情報を言い切ってくれていました。その頃は、その情報を鵜呑みにして「こんなことも知らないなんて、世の中は本当にバカばっかりだな」と人を見下していました。
今振り返れば、あの頃の自分は恥ずかしいほど何も知らない本当のバカでした。そして、自分には知識がないから「○○さんも言っている!」と権威に頼っていました。
しかし、そこで学習を終えず、さらに学習を続けることでこの世界は断言できるほどシンプルではなく、非常に複雑な仕組みでできていることを知りました。
例えば、減税するだけで経済成長できるという意見もありますが、2019年にノーベル経済学賞を受賞したアビジット・V・バナジーとエステル・デュフロが書いた『絶望を希望に変える経済学』(日経BP日本経済新聞出版本部)の中で「税率と成長の間に因果関係が存在するとは結論できない」(同書p256より)と書かれています。
非常に残念なことですが、世の中のほとんどは非常に複雑にあらゆる要素が絡んで構成されています。ふだん本を読まないような人でも読める200〜300ページの本で説明できるほど簡単なものではないのです。
それでも多くの人がわかったつもりになるのはなぜでしょうか?
あなたはダニング・クルーガークラブの一員か?
わかった気になる人がなぜ多いのかは、「ダニング・クルーガー効果」を知れば簡単に納得できます。ダニング・クルーガー効果とは、「愚かな人は自分を高く評価する」傾向を指すもので、この説明をする際には以下のような図がよく利用されます。

この図にあるとおり、何も知らない状態から少し知ると全てをわかった気になります。この状態が一部の情報に最も偏った状態です。それを超えて学習を続けると、自分の信じたい情報が正しくない可能性などを知り、その先の自分で考えることに繋がっていきます。
ちなみにこの効果を発表した二人は「クラブに入るための第一法則は、自分でクラブのメンバーだと知らないこと」だというジョークを言っています。(この言葉は名言としてグッズ化もされているという…)

Amazonホ-ムページより
知った気でいること、無知でいることは実は合理的です。それを答えと思ってしまえば、それ以上の学習は必要ないため、コストがかかりません。つまり、人は楽でいるために断言してくれる権威の意見を鵜呑みにするのです。
しかし、正しい判断をするためには自分の頭で考えるしかなく、そのために学習するべきです。
矛盾するようですが、学習する理由の一つは世の中のほとんどは複雑で簡単に解決できない問題があふれていることを理解することです。その中で、どう折り合いを付けて生きていくのか、それを考えることが学習の目的だと筆者は考えています。
将来、人がAIに勝てるのは考える力くらいと言われているとおり、自分で考える努力をする人とそうでない人の差は今後さらに開いていくのではないでしょうか。
文/井上ヨウスケ
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