「本気度」が違う環境問題への取り組み

環境負荷の軽減といえば、電力などのエネルギーも無視できない課題だ。

アップルは早々に本社ビルなどに太陽光パネルを設置して、自社で使う電力を自社で発電した再生可能エネルギーだけで賄う体制に移行。米国や中国の至るところに大規模な太陽光発電施設を作り、2018年には世界中の支店や直営店で消費する電力を自社発電の電力で帳消しにしている。

だが、オフィス以上に電力を使うのが、中国の工場や日本の部品メーカーなど世界に数百社ある下請け会社(サプライヤー)で行われているiPhoneなどの製品の製造現場だ。そこで2020年にアップルは、2030年までに数百社のサプライヤーも含めた、アップルの生産全体(サプライチェーン)を通して完全に脱炭素体制に移行するという前代未聞の発表を行った。

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2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を目指すアップル(写真/apple.com)

一方、日本を含め、世界中のほとんどの製造業者は、まだ自社で使う電力も賄えていない状態。2022年になってようやく日本の環境庁などの政府機関がサプライチェーン全体を通した脱炭素を考えようと提案し始めたところだが、アップルは地球環境に負荷のないものづくりを実現するために、政府や環境団体に「言われてやる」のではなく、自ら新しい方法を切り開いてほかの企業に示している。

ちなみに、アップルでこうした取り組みを担当している重役のリサ・ジャクソンは、バラク・オバマ大統領時代、アメリカ政府の環境保護庁(USEPA)長官を務めていた人物。政府に対する働きかけなどにも精通しており、取り組みへの本気度が違う。

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アップルのバイスプレジデントであるリサ・ジャクソン。元アメリカ合衆国環境保護庁長官を務めた人物だ(写真/apple.com)

現在、日本にも数多くあるアップルのサプライヤーは、アップルによる資金面の支援などを受けながら、再生可能エネルギーを用いた生産体制に切り替えを進めている。中には、アップルのライバル製品を請け負うサプライヤーもあるが、アップルは「そのほうが地球のためにいいから」と、アップルの資金で導入した設備をライバル製品向けの生産にも使うことを奨励している。

このようにクック時代のアップルは、IT業界の責任あるリーダーとして世界トップクラスの財力を社会のために役立てる姿勢が目立つ。