なぜ辺境に住む人々の権利を抑制しなければならないのか?

まずは憂鬱な国内の話題から始めたいと思います。

実は弁護士ドットコムニュースの9月30日付の投稿で、僕もここで初めてこういう問題が起きたのかと知ったことがあります。

実はその日に日弁連の人権擁護大会がありまして、「デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める」などの四つの決議案を採択したと。そのうちの一つがアイヌに関わる問題です。

正確に申しますと、日弁連の中の公害対策・環境保全委員会アイヌ民族権利保障プロジェクトチーム、これが提案した「アイヌ民族の権利の保障を求める決議案」、僕はもろ手を挙げて賛成したいと思います。

けれども、この採決にあたって、国際交流委員会──日弁連の中にいくつもある委員会の一つで、僕も何回か講演したことがあります──が、日本の安全保障上の観点から委員長名で委員会の総意としての反対意見が出され、そこで紛糾したというのです。

本当に悔しいです。泣けてきます。日弁連国際交流委員会の総意として読み上げられた反対意見は以下のとおりとなっています。

「アイヌを含めた少数民族の権利保護は、非常に重要なテーマであることは、当委員会としても理解しております。そして、標題の人権大会のためにご尽力されている正副会長会、運営委員会及び関連委員会の皆様、並びに旭川及び北海道の会員の皆様にも、心より感謝し、敬意を表します。

しかしながら、当委員会としては、本案に対して、以下の理由により反対せざるを得ません。 

本案は、固有の漁労・狩猟の権利等、主権国家の権利・権益に関わるような権利保護のあり方が提唱されており、政治的・外交的には非常にセンシティブな問題であって、この時期に、日弁連会長の名で宣言・声明を出すことは、将来にわたりロシアの領土的侵攻(北海道、北方四島)の口実として利用されるおそれがございます。

ロシア(以下、旧ソ連を含む呼称として使用します)の領土主張や領土的侵攻が、当地の少数民族やロシア系住民の保護を口実として実行されてきたという、過去の歴史的事実を看過することはできません。

これまで、アフガニスタン、チェチェン、南オセチア(ジョージア)、シリア、クリミア(ウクライナ)、ドンバス(ウクライナ)等は、すべてロシアが、当地の少数民族やロシア系住民の保護を口実として、領土的侵攻を行ってきたものです。

現下の国際情勢に鑑みれば、日本の安全保障上、このような声明がロシアによる領土的侵攻等の政治的口実として悪用されることが強く懸念されます。

以上により、当委員会としては、本案に反対いたします。」

こういうものです。右翼団体ではなく、日弁連の委員会がこう言っているのです。

そのちょうど5日後、ある文章を知り合いの弁護士から手に入れました。4人の弁護士がこの委員会に対して公開の質問状を出したそうです。それからの進展はありません。一体総意とは何ですか。日弁連の中の国際交流委員会の総意とは何ですか。これは問題です。

まず事実誤認です。少数民族問題が侵攻の口実として使われたという点では、クリミア、ドンバスはそうかもしれない、チェチェンもそうかもしれません。南オセチアもそうかもしれません。でもアフガニスタンはそうでしょうか? 

この文章に出てくるアフガニスタンは冷戦時代のソ連のアフガン侵攻のことを言っていると思いますが、あれは別に、ロシア系の民族とか、アフガンの中の少数民族を助けるために口実として入ったものではありません。

あのときは親ソ的な政権の内部で反ソ的な潮流が強くなり、それを押さえつけるために、集団的自衛権を悪用して入っていったわけです。

それにも増して、国家の安全保障を理由として、なぜ辺境に住む人々の権利を抑制しなければならないのでしょうか。例えば日本みたいな一番分かりやすい緩衝国家で言うと、仮想敵国に一番近いところに住む人たち、北海道ではアイヌの人たち、南は沖縄です。

国家の安全保障のためには、この人たちの権利を抑制しなければいけないんですか。それを日弁連が言うんですか。一つの委員会とはいえ。

この場にも防衛関係の人が多分いらっしゃると思うんですけれども、日本みたいな緩衝国家だったら、そういう辺境地区──国際関係の言葉でボーダーランドといいます──は敵国に一番近いところですね。ボーダーランドにミサイルを置き、軍隊を置き、防備を固めなきゃいけないということは、ばかでも考えるわけです。

それはアメリカがやっていることです。日本もやっていることです。沖縄を基地化してきました。自衛隊も入り始めました。ミサイルを配備して。

第3回 安全保障を口実にした辺境の人々の権利抑制は許されない_1
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