リサイクルの優等生・アルミニウム
リサイクルという意味で重要なのが「アルミニウム合金」だ。iPhoneを含め、現在は多くのIT機器のボディが、アルミ合金で作られている。放熱特性が高いこと、仕上げが容易で高級感も出やすいことなどが利点だ。
アルミボディを採用したのはアップルが初めてではないが、「切削で加工され、きれいな角のアルミボディ」を大規模に採用することは、アップルから始まったと言っていいだろう。
なぜアルミ合金が使われるようになったのか? そこにはやはりリサイクルが大きく関係している。
前述のように、IT機器のボディは「アルミの切削」という手法で作られることが多い。文字通り削るのだが、すごくざっくりいえば、「製品と同じ厚さのアルミ合金の塊」をコンピュータの指示によってひたすら削り、バスタブのような美しいラインになるまで加工して作る。だから角がきれいで、精度の高いボディになるわけだ。
だがここで気になる点が一つ。大量に削るということは、大量に削りくずが出るということ。それは無駄になってしまいそうに思える。
そこで、ここからがアルミ合金のいいところだ。
アルミは比較的低い温度で溶かして再利用できるので、削りくずを集めればまた「アルミ合金の塊」になる。リサイクルから集められたアルミ素材も同様だ。アルミ缶リサイクルから質の良いアルミ合金を作るには相応の技術は必要だが、このような流れを経ることで、他の金属よりも無駄なく、質の良いボディを作りやすくなっている。
アップルの場合、すでにMacやiPad、iPhoneのボディに使われるアルミ合金の100%が、リサイクル由来のものになっているという。
アルミとロシア情勢の微妙な関係
さて、アルミの生産国といえば、どこを思い出すだろうか?
アルミニウムの原料はボーキサイトで、産出国トップ3はオーストラリア・中国・ギニア。「ボーキサイトといえばオーストラリア」と覚えている人も多いだろう。
だが、単純にアルミニウムの生産量でいうと、現在は中国が圧倒的に多く、次いでロシア・カナダとなっている。ポイントは「電力」。ボーキサイトからアルミを作るには大量の電力が必要なので、電力コストが安い国に生産が集中している。また、リサイクル・アルミはボーキサイトからの精製に比べ3%の電力で作れることから、利用量・生産量も急増。中国やロシアはその生産拠点になっている。
ロシアでのアルミ事業はプーチン政権とともに成長した。オレグ・デリパスカ氏の率いる「ルサール(ロシア・アルミニウム)」は、中国系を除くと、世界最大のアルミ生産会社。同社日本法人の情報によれば、2020年には全世界のアルミ生産量のうち、約5.8%をルサールが生産していたという。デリパスカ氏はロシア新興財閥「オリガルヒ」を代表する人物でもある。
だが、ウクライナ情勢の深刻化に伴い、日本を含む西側諸国の企業が、ロシア企業との取引を見直す動きを見せている。このことは、ルサールとデリパスカ氏にとっては大きな打撃だ。デリパスカ氏はSNSに「平和はとても重要だ」と書き込みをするなど、プーチン政権とは異なる姿勢を見せつつある。プーチン政権下で成長したとはいえ、デリパスカ氏はもともと元大統領のエリツィン氏と親しく、プーチン政権とは距離があったといわれている。自らのビジネス上の利益から考えても、今回の侵攻に批判的なのも無理はない。
アルミの需要は住宅向けや自動車向けが多く、IT機器は量的にいえば、そこまででもない。現状、ロシア情勢をめぐるアルミ需要は「大きな混乱」には至っていないが、各社の動きは無視できない。
アップルは、新製品「iPhone SE」で使うアルミニウムについて、全量をカナダ・Elysis社から調達すると2022年3月24日に発表した。理由は、同社の製造するアルミニウムが、電力調達だけでなく、精製作業過程で出る分まで含めて二酸化炭素の排出をカットしつつ、逆に酸素を排出する「ダイレクトカーボンフリーアルミニウム」だからだ。
アップルのように、さらなるリサイクルや二酸化炭素排出量削減を目指す企業は多い。そこに国単位での事情も絡むと、アルミをめぐるマーケットバランスが変わっていく可能性もありそうだ。