不倫は人生が終わるほどのことなの? 『窓辺にて』今泉力哉監督の「悪」とされているものへの問いかけ_7

なぜ、浮気や不倫を描くのか

2022年2月公開の脚本参加作『愛なのに』(城定秀夫監督)、3月公開の監督作『猫は逃げた』、そして新作の『窓辺にて』と立て続けに浮気や不倫を描いた今泉監督。彼の中で今、浮気がブームなのか。

「ブームってわけじゃないし、別に不倫願望があるとかでもないです(笑)。そもそも初期から『浮気がバレてモメる』というストーリーはよくやってたんですよ。そして『サッドティー』(2013)あたりから、モメる時期はすでに過ぎ去って、喧嘩にもならないという温度を下げた恋愛を描くように。その流れのひとつとして、不倫を題材にしたものが続いているのかなと思います。あとはやっぱり、明確に『悪』とされているものに対して、疑問を呈することに興味があるんでしょうね」

不倫は人生が終わるほどのことなの? 『窓辺にて』今泉力哉監督の「悪」とされているものへの問いかけ_8

アイデアソースになっているのが、恋愛相談だ。

「俺、TwitterにGmailのアドレスを書いてるから、まったく知らない人からメールで恋愛相談が来るんです。DM(ダイレクトメール)も解放してますし。その中で、危なくないとわかった人とは、会って直接話を聞いたりしていて。

そうすると、何でそんな人を好きになっちゃったの?とか、俺の映画よりひどい目に遭っているみたいな話を聞いて、もうやめて!とか思うことがいっぱいあって(笑)。人の恋愛の話を聞くと、おもしろいと思うことがたくさんありますね。ひとりの人生ではとても経験できないような。

例えば、妻子ある男性と不倫している女性に、『相手の奥さんや子どもに悪いという感覚はないの?』と聞いたとき、『悪いとはいっさい思わない。でも、好きな相手が嫌な気持ちになるんだったら、やめたほうがいいかなと思う』と言われて。それ、どういう思考になってるの?と(笑)。彼女の中にある正義や正解が、俺がひとりで考えてもたどり着くことのできない思考で面白いと思いました」

今年、『永峰中村飯塚』(桂木友椰監督)という自主映画を見て、「『他人ってさ、面白いよ』というセリフがあって、それにグッと来て。あれは俺が書きたかった」と笑う今泉監督。今後も、「人間って面白い」と感じられる、一筋縄ではいかない作品で楽しませてくれそうだ。

不倫は人生が終わるほどのことなの? 『窓辺にて』今泉力哉監督の「悪」とされているものへの問いかけ_9
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取材・文/泊 貴洋
撮影/柳岡創平
場面写真/©︎2022「窓辺にて」製作委員会

『窓辺にて』(2022)
監督・脚本/今泉力哉
出演/稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音 ほか
配給/東京テアトル

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が若手小説家と不倫していることを知っていたが、それを妻に言えずにいた。ある日、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作に惹かれた市川は、留亜と小説のモデルに会いに行く……。

11月4日(金)全国公開
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