2つの勝負の行方は…

物語には「歩がうるしに将棋で勝ってから告白する」という枷がある。

流れ的には「これはもう王手なのでは……」と感じるものの、王手はしょせん王手。このままでは“詰み”にはならない。盤外で詰みにするためには、盤上で勝つことが必要なのだ。

将棋初心者だった歩は四枚落ち、二枚落ちと勝つたびに落とす駒の数を減らしていく。はたして平手でうるしに勝つ日はやって来るのか――。

その間に恋愛初心者だったうるしが、盤外での反撃の糸口を見つけて行動に移すのかどうかも見どころだ。

なお各配信サービスでも見られる本作のテレビアニメは、前述の恋を盛り上げるイベントを中心に構成してあり、分かりやすくまとまっている。うるし役の中村カンナさんら若手声優陣の好演と、マキ役でも出演している花澤香菜さんが歌うオープニングテーマ、中村さんが歌うエンディングテーマが作品にしっかり“寄せて”あるのもポイントだ。

アニメだけを見ている方にはぜひ原作も読んでもらいたい。また原作を追っている方は、改めてふたりの距離がじわじわと縮まるさまを復習してほしい。

とにもかくにも、この盤上と盤外で繰り広げられる接近戦の決着は、やがてつく。「負けました」と言うのは歩なのか、うるしなのか。ドキドキしながら見届けたい。

文/古林恭 ©山本崇一朗/講談社