「ハイパーセクシュアリティ」という極度の性欲亢進

この事例からわかるのは、少年が必ずしも性的な衝動から非行をはじめたわけではないということだ。彼の心の底には、女性への苦手意識と大きな劣等感があった。それを跳ね返す方法が、学校で人気のある女性の秘密(水着や体育着)を手に入れるということだった。

もしこの時点で専門機関につながり、家庭と学校で受けたトラウマの治療を受けていれば、性非行がエスカレートすることを止めることができたかもしれない。だが、同級生の所持品を盗むという行為が性衝動と重なったことで、明らかな性非行へと突き進んでいったばかりか、犯行動機が複雑化していった。

これは別のケースだが、さらにそこに少年が持つ先天的な問題まで重なることがある。私が出会った中では、ある少年は生まれつきホルモンなどの異常から一般の人の何倍も強い性衝動を持っていた。小学校低学年で陰毛が生えて自慰をはじめ、高学年の時には1日に10回も20回も自慰をしていたというから、かなり早熟かつ性欲が強いと言わざるをえない。

このような過大な性的衝動を抱えることは、「ハイパーセクシュアリティ」と呼ばれており、男性だけでなく、女性にも見られる。こうした特性が、A男のような問題と重なると、性非行が加速度的にエスカレートすることがある。(「ハイパーセクシュアリティ」に対する医学的な治療法はあるが、本人の同意がなければ行うことはできない。詳細は『虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか』参照)

こうなると、本人の性衝動を抑えるのが難しくなるばかりか、逮捕後にプログラムを受けても更生することが困難になる。