スケートとの向き合い方は、真正直そのもの。

アイスダンスでは肉体改造から始めている。ボクサーがレスラーになるほどに身体を変化させ、鍛え上げた。同時に村元と二人での調和を基本からとことん磨き、エッジワークを鋭くし、体の傾斜を練り上げ、アイスダンサーになっていった。

1年目はコロナ禍で大会は中止になり、練習も思うようにいかず、想定以上の逆風だったが、それでも新人離れした演技で注目を集め、全日本選手権で2位になった。

練習では密着しながらお互いギリギリのラインを攻めるだけに、引っかかって転んでしまったり、リフトで落下するアクシデントがあったり、ルーキーだけに様々なアクシデントが降りかかってきたが、そのたびに強くなっている。2年目には歴代最高得点を次々に叩き出し、四大陸選手権では銀メダルを手にした。

「2シーズン目でここまで来られたっていうのはすごいことで。大ちゃん(髙橋)はシングルからアイスダンスに転向したばかり。これこそ、"超進化"でした」

髙橋と組む村元はそう言って、成長ぶりへの称賛を惜しまない。あり得ないことをやり遂げてしまう。まるで少年漫画の主人公だ。

―なぜ、そこまで滑ることにこだわるのか?
 
インタビューで、髙橋にそう訊ねたことがある。
「何が楽しいかって…。たぶん(会場全体と)一つになるのが好きなんですよ」

彼は柔らかい声で語った。氷の上で感じられる熱を大事にしているのだろう。その言葉を行動で表すのが、彼の生き方だ。

2008年、自身の生まれ故郷でスケーターとしての原点と言える倉敷のアイスリンクが財政面の問題で閉鎖が決まった。当時、髙橋は存続のためにチャリティーエキシビションを開催。存続運動の火付け役となると、世論を動かし、リンクを守っている。

そこで、もう一つ奇跡が起きた。

当時、倉敷でのエキシビションを目にした一人の幼い男の子が、「白鳥の湖」のヒップホップバージョンを滑った髙橋に憧れている。その後、日本有数のスケーターに成長する三宅星南は、2022年の四大陸選手権に出場し、「白鳥の湖」を全力で好演した。そして同大会で、時を越えてアイスダンサーとなった髙橋とも共演したのだ。

これぞ、氷上の表現者の本懐だろう。

髙橋は大阪『臨海スポーツセンター』を救うためにも、1億5千万円もの募金集めの先頭に立っている。本人自らが語ることはないが、子供たちがスケートをする環境を守った。フィギュア界のパイオニアとして、後輩たちから広く尊敬される所以だろう。