「私」が救われるための取材を続ける

どうにか続けたいという意志を示すため、休刊予告を掲載。すると、かつて読んでいた読者が購読を再度申し込んでくれるなどして実売が一気に伸びた。同時に編集部ではマーケティングを学び直し、読まれることをより意識した記事づくりに力を注いだ。ウェブ版の創刊も状況を好転させた要因となった。「必要なものを届けることの意味や大きさを学んだ」と石井さんは振り返る。

「一番大事にしているのは、『私のために』取材をすること。読者のためでも新聞のためでもなく、『私』が救われるために取材をしてほしい。自身が抱えている生きづらさについて話した上で、どうにかしたくて意見を聞きたいと取材相手に伝えると、そこはもはや取材ではなくて、人と人とが生きていくために必要な意見を交換する場になるんです」

プロのライターやインタビュアーにはできない話の聞き方だろう。子ども若者編集部のメンバーは、取材したい人を提案し、許可を得るとスタッフと一対一で何を聞くかを話し合う。1、2時間かけて突き詰めていくと表れる正直な気持ちは、「自分が生きていることが許せない」「バイトの先輩が怖い」などと言語化されていく。自身の思いを吐露し、ぶつける。だからこそ、受ける側も真摯に向き合いたくなるのだ。

「取材当日に取材者の子どもが来られないこともありますし、前日から不安で一睡もせずに当日を迎えて取材中に眠気がピークで寝るとかもありましたね。私はそういう不安定さもすごく好きで。取材を受ける側のみなさんはびっくりされますね。作家の辻村深月さんは、今までで一番印象に残っているのが不登校新聞の取材だと言ってくださいました」

当事者や経験者だからこそ聞ける話があり、発信できることがある。学校に行けずに悩んでいる子どもはもちろんのこと、周りで支える親や先生、そして生きづらさを感じる大人にも本紙を読んでほしい。「私」が救われるための取材で、救われる誰かが必ずいるだろう。それはあなたかもしれない。

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取材・文/高山かおり
編集/一ノ瀬 伸