絶望の中のサスペンスドラマ

陰鬱でリアルなシチュエーションと重たい展開は続く。ただ、本作は救いのない現実をただ描いたドラマではない。多くの謎や伏線が散りばめられており、読み進めていくにつれて徐々にそれらが明らかになっていくサスペンスなのだ。

たとえば幼馴染の玄は、その横暴な行動の意味や感情が描かれるごとに、初登場の時から大きく印象が変わっていく。また似非森は、彼がこの閉塞感ただよう町に「戻って来た」意味と過去が描かれることで、その真意を表に出すようになる。

登場人物たちの秘密やキャラクターが明確になるにつれ、物語の輪郭がくっきりしていき、ようやく『少年のアビス』の全体像を知ることになるのだ。

やがて物語には大きな転機が訪れる。

このとき読んできた“前提”が崩れ落ちるように感じるかもしれない。令児はそれを受け入れるのか、それとも抗うのか……ぜひ自分の目で確かめてみてほしい。

1巻、2巻と読み進めていけば、本作の仄暗い魅力のとりこになり、ページをめくる手が止まらなくなるだろう。あなたもまた、アビス(深淵)にすとんと落ちてしまうはずだ。

©峰浪りょう/集英社
文/古林恭