「では何で解決するのか」を
知るための本
ドキリとするタイトルの、その先にまで踏み込む快著である。
差別を思いやりによって解決しようとする態度が、権利保障とそのための制度設計に対する諦めや居直りを内包した、実のところ相当に後ろ向きな態度であることを、著者は具体例を挙げながら小気味よく論じていく。差別とは人々の心持ちの悪さのみの問題だと考える人は、著者も述べるとおり残念ながら決して少なくない。本書がそのような多くの「良識的な」人々に届くことは、差別の解消に確かにつながるだろう。
ただし、本書の記述はこの地点にはとどまらない。思いやりで差別を解決しようとする態度の持ち主に欠けている重要な要素、すなわち権利保障とそのための制度設計に関する知識の巧みな整理に、読者はさらに誘われる。現行の制度はどのようなもので、どのような問題点があるのか。どのような制度を作れば、何が可能になるのか。LGBT法連合会事務局長でもある著者の面目躍如たる書き振りで、複雑に思える制度の要点が分かりやすく取り出される。読者は本書の記述に導かれることで、差別を解消するための「制度について考えるとは何を考えることなのか」を理解することができるだろう。「思いやりで解決できないなら、何で解決するのか?」に対する答えを、著者は示してくれているのである。
なお、本書で取り上げられている差別は、おもに女性差別と性的少数者差別である。両者は実際には根を同じくするものであるにもかかわらず別個の問題と考えられることが多いので、本書が一冊で双方にまたがるアプローチをしていることはきわめて意義深い。また、ここ数年SNS上を中心に威力を増しているトランスジェンダー差別についての手厚い記述にも、トランスジェンダー差別に反対する一読者として、心強さを感じた。「至れり尽くせり」の一冊として、多くの読者が本書に触れることを評者は願ってやまない。