これぞ怪談ブームの原点!
・木原浩勝・中山市朗『新耳袋 第一夜 現代百物語』(角川文庫、電子書籍あり)
1990年代から2000年代にかけて刊行された「新耳袋」全10巻は、今日の怪談実話ブームの原点となった名シリーズだ。各巻に99話ずつ収録されている怪談は、すべて著者の木原浩勝と中山市朗が取材したり、実際に体験したもの。幽霊を見た話、狐狸妖怪に遭った話、なんとも説明のつかない奇妙な出来事が編まれている。
無駄を省いた文章で綴られる各エピソードは、単体で読むと正直そこまで怖くはない。しかし続けて読んでいるうちに、確実に周囲の空気が変わってくる。ちょっとした物音や、影が妙に気になりはじめる。一晩で読み切るとおかしなことが起きる、とまことしやかに囁かれているのも納得の怖ろしさだ。
有名な「山の牧場」のエピソード収めた『第四夜』や、実在する迎賓館での怪異を記録した『第九夜』あたりが圧巻の恐怖度を誇るが、まずは「新耳袋」のスタイルを確立した『第一夜』を読んでみてほしい。家の地下から謎の空間が発見されたという話「地下室」など、「これは、一体……?」と呟きたくなるような不条理なエピソードも含まれるが、そうした割り切れない展開も含めて、リアルな体験談の怖さがひしひしと伝わってくる。