高校3年間の中で気づいたこと

「いきなり初戦で負けて、『俺はこんなに弱くなったんだ』と絶望した時にタオルを持ってくれる後輩がずっと『勝てます。大丈夫です』って励ましてくれたんです。その言葉に『そうだな。これで最後だし悔いの残さず頑張ろう』と思って何とか第2試合以降をふんばり、予選を勝ち残ることができました」

さらに迷子の男児を保護したことも支えになっていたという。

「これは山田先生からずっと言われてきたことなんですが、悪いことをしたら悪いことが返って来る。だけど、いいことをしたらいいことが返って来るって思っているんです。なので今回、人を助けたことは『いいことだよな』と思っていたので、それを自分に言い聞かせていました」

その言葉と後輩の励ましを心の支えに高山は勝ち進み、決勝戦では鳥取城北高校の松井奏凪人をすくい投げで破り、高校横綱に輝いた。頂点に立った今、思うことは支えてくれた人々への感謝だという。

「先生の指導、仲間の励ましと助け合い。それと保護者からも応援と差し入れをくださいました。そうした周りの人のおかげで、自分は勝てたと思っています。中学時代は自分1人の力で勝てると思っていましたが、高校へ来てそれは間違いだと気づかされました。先生、トレーナー、両親…いろんな人たちが支えてくれたから自分は強くなれたと思っています」

今回、男児を保護した時、雨でずぶ濡れになった生徒の姿に山田監督は体調を心配し叱ったという。それでも日々の生活の中で「感謝と思いやり」を指導してきたことが形となって表れたことに山田監督はこう明かす。

「私は生徒には『人に優しく』、『人をばかにするな』、『人を傷つけたら必ず自分に返って来る』。常にそういうことを言っています。今回、そういう思いやりを持った行動をしてくれたことが嬉しかったですね」

埼玉栄は、角界に元大関・豪栄道の武隈親方、現役では大関・貴景勝ら数多くの人材を輩出している。高山の夢も同じく、先輩たちが活躍する大相撲だ。

「プロに行って早く上へ上がって親孝行したいと思っています」 

高校横綱の中にはどこまでも「感謝」と「思いやり」の教えが貫かれていた。

「高校横綱」と「感謝状」2つのタイトルが証明した埼玉栄相撲部・名将の指導_2
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取材・文/中井浩一