「これをやれ」ではなく「これをやったら…」
鉄砲柱と呼ばれる柱に向かって左右の突っ張りを繰り返す「鉄砲」の稽古を1年時は毎日300回こなしていた。しかし、自分自身で考えを改め直し、真剣に打ち込んでからは毎日1000回を自らに課したという。結果、押す力が鍛えられ高校相撲の頂点に立った。さらに、入学当初は体重110キロだったが、山田監督から「お前はあと20キロ増えれば高校横綱になれる」と断言されていた。
「その言葉を信じて体重を増やして3年で130キロになりました」
監督に「嫌々やらされる」指導ではなく生徒自らが気づき、努力した道のりが結果となった。こうした生徒の自主性に委ねる指導法を山田監督はこう説明する。
「私は生徒に『これをやれ』とは言いません。『これをやったら強くなるよ』と声をかけます。その練習をやれば、すぐに結果が出る子もいれば、時間がかかる子もいます。だけど、必ず形になって出てきます。そうすると『俺もできる』と思うんですね。いわば、生徒にいい意味での勘違いをさせるんです。
みんな勝ちたい、強くなりたいと思っているんです。それなのに『ダメだ』なんて言ったらやる気をなくしますよ。大切なのは生徒をその気にさせることです。そうすれば生徒は自分で考えて努力します。それが何よりも大切なことなんです」
この自主性を育む教えの結果は土俵以外でも、小5男児の迷子保護という形で発揮された。
7月16日夜、高山は午後8時過ぎに後輩の伊賀慎之助と日課のランニングのために寮を出た。走るコースは寮から学校までの往復4キロ。途中の公園で腕立て伏せなどの練習をしていた時、男の子が1人で公園へ歩いてきたという。
「こんな時間に子供が1人で来たので『どうしたのかな?』と思って、放っておけなくなって学校の道場へ連れていきました」