オウム真理教と旧統一教会のちがい
結局この高額な献金による家庭崩壊が、山上容疑者を追い詰め、安倍元首相を銃撃するという結果を招いた。もちろん、銃撃によって人を殺すなどというのは許されないことだ。ただ、このとめどない献金が家庭の不和を招き、山上容疑者が旧統一教会への怨恨を深めていくことになったのも事実だと伝えられている。
その結果、亡くなった安倍元首相をはじめとして、多くの政治家と旧統一教会の癒着が徐々に明らかになっていった。政教分離の原則からすれば、自民党が票田として旧統一協会の組織票にすがっていたというのもあってはならないことだ。
金の流れを含め、旧統一教会と自民党との不透明な癒着構造は司直の手によって徹底的に明らかにされなければならない。
しかし現実には、自民党右派とその総裁が、旧統一教会と1960年代から反共産主義という立場で協力し合ってきたという歴史がある。
安倍元首相の祖父に当たる岸信介元首相と文鮮明教祖は直接会談し、1968年には岸をトップにした国際勝共連合という組織が創立されている。
1974年、当時大蔵大臣だった福田赳夫は、文鮮明の開いた晩餐会で「アジアに偉大な指導者現る。その名は文鮮明である」として、文を絶賛するスピーチを行っている。晩餐会に出席した自民党議員は40名。1986年には勝共推進国会議員が120名もいた。
1992年、元女優・歌手の桜田淳子らが出席した合同結婚式には、中曽根康弘元首相から「民族問題や宗教の対立を超えて、人類の理想に向かって進もう」という祝辞が送られたほか、旧統一教会親派の自民党議員の名前を上げたらきりがない。警察が手を出しかねているのもこれが原因である。
そして2021年、山上容疑者が安倍元首相を殺害する動機となった、安倍氏が旧統一教会の関連団体に送ったビデオメッセージ。それを見た信者たちがどれほど感動し、自己の信仰に自信を持ったかは、想像に難くない。
1990年、オウム真理教は自ら権力を手に入れようと国政に打って出たが大敗。その後、方針がテロに変わる。その結果、あっという間に解体された。
一方で旧統一教会は政権を利用し、庇護されることでサバイバルする方針を取ってきた。その結果の差は歴然としている。
被害は現在も続いている。その被害の大きさを考えれば、もはや宗教団体ではなく、矛盾だらけの巨大な詐欺集団ともいえる。被害者の心情を鑑み、調査によって被害の全容が明らかになれば、国はただちに宗教法人格の剥奪などしかるべき手段を取るべきではないか。
取材・文/大泉実成 写真/shutterstock