信者が神や霊と“出会える”カラクリ
その点、旧統一教会の「原理講論」には哲学者たちの記述もあったが、理解が浅薄でステレオタイプ。さらに、様々な解釈が可能な「黙示録」の一方的な断定(これはエホバの証人や、筆者が二年近く体験取材をしたオウム真理教にも見られる)が見受けられた。
また、キリスト教という一神教を表看板にしながら、神の存在証明に関する記述がないのも大きな問題だった。
しかし、紙の資料だけでは伝わらないものがある。カウンセリングを始めた当初は、霊感商法の被害や手口についての雑誌記事などがたくさんあったが、教学システムに関わるものはほとんど出回っていなかった。その中で、関係者の語る世界は実に生々しかった。
ある時、私のもとに旧統一教会から友人を脱会させたいという大学生がやってきた。彼自身も教学システムを途中まで行ったが、講師の人間の目の色が異様だったので、怖くなって教団を離れたという。
彼の話で興味深かったのは、常に信者の睡眠時間を少なくしておくこと(徹夜祈祷などが行われる場合もある)、断食などが行われることである。カルトの二大特徴は、このように生理的剥奪を行うことと、法外な献金を要求することだが、旧統一教会はこの両方が当てはまっている。
睡眠を奪われると意識レベルが低下し、教義のすりこみがやりやすくなるし、容易に幻覚や幻視にとらわれるやすくなる。
あるいは神や霊と出会ったかのような神秘的な体験をする人もいる。元々の霊媒体質でなければ、山上容疑者の母にはこの過程で夫の霊の幻視が起こり、「夫の霊」が“見える”ようになったのではないか。
こうした経験が教会の教義に絡め取られると、容易に「先祖の霊が地獄に堕ちているせいで夫の霊が苦しんでいる。このままではもっと恐ろしいことが起きる。献金しなければならない」と言われるようになる。
そこで「死んだ夫の霊がさまよっていて、献金するとしかるべき所におさまる」という異様な言葉が生まれ、「夫の霊」と「献金」という、本来結びつくはずのないようなものが結びついていき、一億円を超える献金が生まれたのではないだろうか。