『夏のオトシゴ』のヒットが契機に…

興味深いことに、それまでは文学作品の主題であり、王朝貴族の楽しみだった「ネトラレ」が、現代ではポップカルチャーの最先端、成人向け同人マンガ市場においても「定番ジャンル」となっているのだ。

アダルトマンガ誌のベテラン編集者X氏(センシティブなジャンルのため、本人の希望により匿名)によると、そのブレイクの契機となったのはサークル名「アイスピック」作の同人マンガ『夏のオトシゴ』だったという。

『夏のオトシゴ』は2016年5月に同人マンガ販売のプラットフォーム「FANZA同人」(当時はDMM.R18同人)で公開された。公開後、現在まで20万以上のダウンロードを達成し、同人マンガとしては伝説的なベストセラーとなっている。

この作品では、主人公と両想いになった彼女、一ノ瀬香奈が、同級生のやり手男に目をつけられてしまう。皮肉なことに恋を知って雰囲気の変わった彼女は、クラスの中でも目立つ存在になっていたのだ。弱みを握られ思うままにされる一ノ瀬さん。しかし主人公は彼女が大変な目に遭っていることを知らず、ただ待ち合わせ場所で待っていた。

この作品のヒットが契機となり、「ネトラレ」分野が覚醒。一時期は競って描かれる人気ジャンルとなり、それが商業マンガにも波及するムーブメントになったという。

ちなみに「同人マンガ」というと、既存商業マンガのキャラクターを描くいわゆる「二次創作」を想像されるかもしれない。それはそれで大健在なのだが、マンガのデジタル配信が広がった現代では、アマチュアも自作を自由に販売できるプラットフォームが整っており、そちらでは著作権の問題がないオリジナル作品が主流となっている。

その読者層は、必ずしも「アキバ系美少女ファン」とは限らず、たとえばFANZAの場合であれば、むしろ実写AVのファンと親和性があったりするそうだ。「AVでは人妻ものが人気でした。ネトラレも、そうした土壌から生まれてきた面もある」とX氏は語る。