怖いものがひとつもない人が一番怖い

――その背景にはご自分もずっと地元・松山で生活されて、地方の土着的文化や自然に影響を受けていることも?

宇佐美 私が生まれた時なんてコンビニはないし、夜に田んぼの中を歩いても街灯すらなく真っ暗で光がないわけですよ。そこで皮膚感覚とか、音や匂いに対しても研ぎ澄まされますしね。今の子供はそういうのも絶対にわからないでしょう。
 この作品を読んでいただいて、同世代の人に共感してもらえるのとは逆に若い人には新鮮かもわからないですよね。『愚者の毒』くらいから私の作品に入ってこられて、こういう怖い話を書くとは意外だったと言ってくださると「しめしめ」と思います(笑)。

――そういう意味でも読者層を広げて、また原点回帰されることに意義がある。

宇佐美 ほんと、怪談って聞いただけで「うわ、私、だめだめ!」とか言われて敬遠されるのがすごく不本意で悔しいんです。怖いだけじゃなく、郷愁を誘われるのも切ないし面白いし、バラエティに富んでるから読んでみてって。
 私は正直、ミステリーでもトリックとかは苦手で、人間性とストーリーの妙が持ち味だと思っています。怪談に関しては書かないところを想像してもらって、その人なりの恐怖のカタチを作り上げてもらいたいと思っているので、どちらも読み手の想像力をかき立てるように心がけています。

――夜も明るく暗闇がなくなった現代ですが、人間の心はいつの世も闇と隣り合わせ……。

宇佐美 怖いものがひとつもないって人が一番怖いですよね。今、こうやってウイルスに浸食された世界を見ても、人間が自分勝手な傲慢さでひとりよがりな幸福だけを求めた結果じゃないかと思って。謙虚さとか、自然を畏怖する態度というのがすごく大事ですし、それも怪談で教えてもらえるはずですから。

――今作を経て、遅咲きのデビューゆえにますます尽きぬ創作意欲に期待大です。

宇佐美 もう、この歳になったら我が道を行くしかないですから(笑)。ふてぶてしくずうずうしく、その生き方を押し通します。書きあぐねて悩んだりスランプに陥ってる暇もない。そのうち死ぬので、その前にやりたいことを全部やって、読者をぶるぶる怖がらせないといけないですね(笑)。

関連書籍

宇佐美まこと「私の原点は怪談――人間の怖さや狂気を書いていきたい」_3
夢伝い
著者:宇佐美 まこと
集英社
定価:本体1,800円+税

オリジナルサイトで読む