日常から生じる異界との亀裂がグロテスク

――地元テレビ局でのインタビューでも「私が書く小説は私が読みたい小説」と以前に仰っていました。

宇佐美 そうです。私は小説家養成講座に行ったり、同人誌の活動に参加したこともないし、全部我流なんで。書いていく上での指針は、私が読みたいっていう、ただそれだけを拠り所にして書いています。
 50歳でデビューしましたけど、それまでがただ読む側の人で、批評家としては自分でもすごくうるさいというか、厳しい目を持っているので。まず作品を書いて、それを今度は読む人間として「こんなん全然怖くない」「面白くないやん」とか、そういう視点でいられるのは助かってますね。

――今回の収録作品が発表された時系列ではなく、ランダムにシャッフルされているのも読者を意識した構成を企図されたり?

宇佐美 担当編集さんにこれを単行本にまとめたいと言われた時、テイストをちょっと変えてバラエティーに富んだ見せ方をしなければと思いまして。そこからSFっぽいものとか、昭和のノスタルジックな味わいを意識して書いたのもありますし。
 最初に『夢伝い』を持ってきたのは短いタイトルでいいし、その言葉、何?って、あんまり普通は聞かないから、いろいろ想像してもらえますよね。逆に「心温まる話なのかな」って、間違ってもらってもいいですし(笑)。

――なるほど戦略的な(笑)。そのノスタルジックな味わいが全編に通底しており、推薦コメントを戴いた稲川淳二さん曰く「何処か懐かしいその原風景に浸るうち、知らず知らず怪異の淵へと呑み込まれてゆく。こうなるともう逃れる術が無い」――と。

宇佐美 そういう言葉を頂戴して、ほんとぴったりだと思いました。私は歳をとって人生経験もそれなりに長いですし、引き出しの中にしまっているものが結構多いので。『送り遍路』という話も、母の実家が遍路宿をしていた時の記憶を取り出したりして。
 門前の参道をお遍路さんが白装束で歩いていくのをずっと見ながら「此岸」と「彼岸」を行き来する、この世ならざる存在に思えてぞっとしたりしたことを覚えていて。そういう妄想したことが出てきて話がすごく広がるんです。

――そうしたダークサイドに惹かれ、人間でありこの世の光と闇に掻き立てられ……。

宇佐美 何が怖いって、とんでもないところで起きる怪異じゃなく、自分が生活している日常と地続きでそういう異界との亀裂が生じるほうがグロテスクで一番怖いと思うので。そこに遭遇してしまった人間の狂気がまた呼応するというか、その裏に憎しみがあったり、ちょろっと焦点が合ってしまう瞬間がまさに怖さなのかと。