そもそも死は苦しいものじゃない

緩和ケアとは、重い病を抱えている患者さんやその家族の心身のさまざまな苦痛を予防したり、やわらげたりする医療のことです。一般的には病院の緩和ケア病棟で受けることができます。緩和ケアを専門とする医師のほとんどは病院の勤務医です。

一方、私は開業医として緩和ケアを行なっています。終末期に自宅で暮らしたい患者さ んをサポートするので、「在宅緩和ケア医」と名乗っています。

病院での治療をやめて、自宅で生きることを選んだ患者さんの中には、すぐに亡くなってしまう方もいます。しかし、その最期は、病院で見られる絶望的な「死」とはまったく異なり、みなさん穏やかな表情で亡くなっていきます。

私は病院医療と在宅緩和ケアの両方を見てきた立場として、こう断言します。「終末期の患者さんは、病院での延命治療をやめて、自宅に戻ってすごしたほうが人間らしく生きられる」と。

病院の医師は、人間の死がこんなにも穏やかなものだとは知りません。

病院が当たり前に行なっている治療をやめて、上手に支援すれば、多くの人が苦痛から解放されて、最期のときまで穏やかに生き抜くことができるのです。