キーワードでスコットランド史が
よくわかる
日本語でイギリスというのが悪いのか。サッカーやラグビーのワールドカップが開催されると、その代表チームはイングランドと呼ばれるが、これ、どういうことなのか。イギリスとイングランド、まあ、似ているからいいかと流しかけるが、単に発音の問題ならイングランドに訂正すればいいじゃないかと、やはり釈然としない。が、その国からは同じワールドカップに、ウェールズ代表とか、スコットランド代表とかが出るときもあるのだ。一国から複数チームが出るのはズルいと思う気持ちはさておき、そうすると、日本でイギリスと呼ばれている国は、イングランドと同じではないことになる。実はイギリス=イングランド+ウェールズ+スコットランド+北アイルランドなのだ。なるほど正式名称が「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」で、グレートブリテンの連合王国の中身というのが、その三国だったのだ。
しかし、だ。イギリスと同じでないなら、しばしば政治問題になる北アイルランドはわかるとして、イングランドとは何か。ましてやウェールズとは? スコットランドとは? かかる問いに答えてきたのが、桜井俊彰である。その取り組みが「誰も書かなかった英国史三部作」で、これが『消えたイングランド王国』(二〇一五年)、『物語 ウェールズ抗戦史 ケルトの民とアーサー王伝説』(二〇一七年)、そして六月に刊行される『スコットランド全史 「運命の石」とナショナリズム』で、ついに完結する。この最新作だが、「全史」などと打ち上げられると、その起源から現代まで、ぎっしり詰めこまれているのかと、やや身構えてしまう。が、ここでは運命の石、マクベス、ウィリアム・ウォレス、ロバート・ブルース、メアリ・ステュアート、ジェームズ一世というようなキーワードを軸にすっきりまとめられているので、その歴史がスルスル頭に入ってくる。あげく、話題のスコットランド独立までが展望される。今日的問題を理解したい向きまで含め、これ、お薦めである。