天性の挑戦者

2019年9月、横浜市内のホテルの広間。詰めかけた報道陣で会場はざわめいていた。

「アイスダンスを、もっと知りたいと思いました。スケートの広がりが感じられるはずで」

髙橋は年内でシングル二度目の引退を決意し、2020-21シーズンからアイスダンスに転向することを発表していた。

「今の自分は、(スケートに関して)“競技者か”“プロか”、その境をなくしています。どっちか、というのはありません。もちろん、形としては競技者になりますし、勝たないと注目してもらえない、とも思っていますが」

写真撮影のため、髙橋は村元とのポーズを要求されたが、当時は恥ずかしさの方が勝り、仕草はどれもぎこちなかった。シングルでのラストシーズン、体脂肪率は5%以下に抑えた細身だっただけに、「リフトはできるの?」というメディアからの質問を受けていた。

髙橋は「まずは肉体改造から」と笑い、村元が「私も極力絞って、大丈夫にします!」と返した。

同じフィギュアスケートでも別のジャンルであり、未知の世界だったが、二人は朗らかに一歩を踏み出そうとしていた。

「また一からスタートしてみたい」

そう語る高橋は天性の挑戦者だった。転向がうまくいかないことは多いはずで、うまくいかなかったら、皮肉や批判を浴びるかもしれない。しかし、彼はそれでもアイスダンスを選んだ。

「みんなにアイスダンスをやりたい、と思ってもらえるカップルになりたいです」

村元は、はつらつと語っていた。アイスダンサーとして3度の世界選手権に出場し、2018年には日本勢最高位の11位、さらに平昌五輪にも出場している彼女は、新たに髙橋とカップルを組んだ決め手も説明した。

「(初めてトライアウトで髙橋がアイスダンスをして)楽しい、難しい、どっちに転ぶかだと思ったんですが。『楽しい』っていう一言が聞けたのが嬉しかったですね。難しい、だけだったら、どうかなって思っていたので。(髙橋)大ちゃんの『楽しい』という言葉が、すごく印象に残っています」

まだアイスダンサーとしてはリンクに立っていなかったが、二人の呼吸は結成会見の時から合っていた。