主流メディアも極右を増幅させる

極右と主流メディアの関係は、単純な敵対ではない。極右メディアは主流メディアを「システム」の一部として攻撃しながら、その情報生産には大きく依存している。フランスの代表的な極右系情報サイト「Fdesouche」(*4)はその典型である。同サイトは、主流メディアの記事や映像を選び取って紹介することで知られる。ある調査では、同サイトが引用したコンテンツの45%がフランスのニュースメディア、10%が外国メディアの記事だった。

fdesoucheのトップ画面 写真/編集部作成
fdesoucheのトップ画面 写真/編集部作成

極右メディアは、主流メディアの報道を「再情報化」することで、「移民によって治安が悪化している」「国が脅かされている」という物語を作る。しかも、元の記事や映像をそのまま示すことで、「これは大手メディア自身も報じた事実だ」と主張し、自分たちはそれを伝えているだけだという体裁を取ることもできる。しかし、元の報道に手を加えていないからといって、その発信が中立になるわけではない。何を選び、どの文脈に置き、何を繰り返すかにも、受け手を特定の認識に導く政治的な働きがある。主流メディアは批判の対象であると同時に、極右的な物語を組み立てるための巨大な素材庫としても利用されているのである。

他方で、主流メディアの側にも極右の言説を広げる仕組みが大きく二つある。資本によってメディアを掌握し、編集方針を内部から変えていく政治的介入と、視聴率やアクセス数を追求する商業的な論理である。

前者の代表例が、実業家ヴァンサン・ボロレ(*5)の築いたメディア帝国であろう。かつての極右は、主流メディアで十分な発言機会を得られなかったため、自前の媒体をつくり、ネット上に独自の情報空間を築いてきた。ところが、ネットで大規模な視聴者を獲得すると、そこで育った人物や論点が、今度はテレビ、ラジオ、新聞、出版へと逆流入するようになる。

それを象徴するのが、ボロレ傘下のメディアである。そこでは、主流メディアそのものが内側から作り替えられ、極右の文化戦争を全国規模で展開するためのインフラに変貌する(フランス超富裕層と極右の接近については第3回記事を参照)。

ボロレ・グループの傘下には、テレビ局のCNews、ラジオ局のEurope 1、週刊紙JDDに加え、多数の出版社が置かれている。買収後の各媒体では、人事や番組編成を通じて、経営者の政治的意向に沿った編集方針への転換が進んだ。

既存のジャーナリストが退職や排除によって姿を消し、経営陣は代わりに極右系媒体の出身者や反動的な論客を、司会者や編集幹部、レギュラーコメンテーターに起用した。 i-TéléがCNewsに変わる際には、編集部の4分の3を超える70人以上のジャーナリストが離職した。こうした人員の入れ替えにより、移民、イスラム、治安、「ウォーキズム」といった話題が報道や討論の中心を占めるようになった。編集部の上層部は、扱うテーマとの選定とその切り口までを強く統制し、現場のジャーナリストの自律性を狭めていった。

しかし、極右の言説が主流メディアで増幅される過程を、ボロレ個人の政治思想だけで説明することはできない。なぜなら、ボロレ傘下ではないメディアも、視聴率やクリック数を求めるなかで、極右の論点やインフルエンサーを繰り返し取り上げてきたからだ。

こうした背景には、限られた広告収入と人々の関心をめぐるメディア間の競争がある。アテンション・エコノミーの性質上、複雑な社会問題を丁寧に説明する記事や調査報道よりも、事件や対立を前面に出し、恐怖や怒りを喚起するコンテンツのほうが、短時間で注目を集めやすい。移民による犯罪、イスラム、治安、男女間の対立といった問題を、明確な敵を伴う単純な物語へと変換する極右の言説は、こうした論理に適合しているのだ。

この傾向は、番組制作をめぐる経済的な事情によってさらに強められる。現地取材や長期の調査には時間と人手がかかるのに対し、スタジオに論客を集め、時事問題について意見を対立させる番組は、比較的少ない費用で長い放送時間を埋めることができる。

そのため、専門的な知識や綿密な分析よりも、短い時間で刺激的な断定を繰り出し、論争を生み出せる挑発的な論客のほうが重用されるのである。このようなオピニオン番組や討論番組が増えるにつれ、保守・反動系の論客がテレビ、ラジオ、新聞、出版を横断して活動する機会は増加した。極右の浸透を支えているのは、一部のメディア所有者による政治的な介入だけではない。注目を奪い合い、低コストで絶えず話題を生み出そうとするメディア産業そのものの構造が、極右を増幅させているのである。

*4 Fdesouche(エフ・ド・スーシュ)は、国民戦線(現・国民連合)などで活動していたピエール・ソートレルが、2005年に個人ブログとして開設したサイト。名称は「生粋のフランス人」を意味するフランス語 Français de souche に由来する。2006年以降、移民、イスラム、治安・犯罪に関する主流メディアの記事や映像を集中的に転載するニュースまとめサイトへと移行した。
*5 ヴァンサン・ボロレはフランスの実業家。1981年に一族の製紙会社を兄とともに引き継ぎ、物流、広告、メディアなどへ事業を拡大した。2000年代以降はメディア企業の買収を進め、Canal+、CNews、Europe 1、新聞JDD、出版社アシェットなどを傘下に収めている。