正社員に誘うことは、その人の将来を引き受けること
仕事を任せる関係は、やがて将来の相談へと広がります。ネパールから来たラメスさんへの向き合い方にも、坂本さんの考えが表れています。
ラメスさんが日本で働き続けたいと考えた時、坂本さんは、一度ネパールへ帰り、両親と話すよう促しました。店にはいてほしい。しかし、日本で暮らすと決めることには、母国で待つ家族と離れて生きる意味もある。本人が本当に望んでいるのか、家族と話したうえで考えてほしかったのでしょう。
ネパールで結婚し、日本へ戻って家族を持ったラメスさんに、坂本さんは正社員にならないかと声をかけます。ただ人手を確保するための誘いではありませんでした。小さな会社だからこそ、正社員にするのは店長か、将来、店長を任せたい人だけ。仕事ぶりを見たうえで、ラメスさんをその一人に選んだのです。
ここには、在留資格の問題がありました。「留学」の在留資格でアルバイトをする場合、資格外活動許可を受けても、通常は原則として週28時間以内です。大学を辞め、正社員として働くなら、その仕事に合った在留資格への変更が必要になります。店と本人が合意するだけでは、先へ進めません。
坂本さんは必要な手続きを調べ、入管へ何度も足を運び、説明を重ねました。本書で紹介したのは、ラメスさんが四店舗の売上管理やデータ分析、スタッフ教育など、法人運営にかかわる業務を担当する社員として申請し、「技術・人文知識・国際業務」への変更が認められた経緯です。単にコンビニの正社員と名乗れば認められる、という話ではありません。
私が注目したいのは、手続きの難しさを本人だけに背負わせなかったことです。必要な人材だと思うなら、働き続けられる条件を、雇う側も一緒に整える。店長に育てたいという言葉を、具体的な行動で裏付けていたのです。
最初から「父親」になろうとしたわけではない
ラメスさんは、その後、店長になりました。子どもが増え、日本で家を買おうとした時にも、坂本さんが相談に乗っています。物件探しを手伝い、書類を一緒に考え、銀行とのやり取りや分かりにくい手続きを支えました。
日常会話や店の仕事ができても、住宅購入の書類を理解できるとは限りません。仕事を覚える時とは別の難しさが、暮らしの節目ごとに現れる。そこでも頼れる相手だったことが、「日本のお父さん」という呼び名につながっていったのだと思います。
ただ、坂本さんは、最初から誰かの父親になろうとしたわけではありません。店を守りたかった。人手が必要だった。採用した人には、きちんと働いてほしかった。そのために仕事を教え、辞められては困るから生活の相談にも乗った。失敗すれば叱り、頑張れば認め、困った時には力を貸した。
その積み重ねが、雇う側と雇われる側というだけでは説明できない関係をつくりました。支えていたつもりのスタッフから、自分も支えられる。その経験が、坂本さん自身を変えていったのではないでしょうか。
今、外国人スタッフはコンビニの日常風景になっています。しかし、どこの国から来て、なぜ日本で働き、どんな将来を思い描いているのかを、私たちはほとんど知りません。制服の向こうには、学校があり、家族があり、母国で待つ人がいます。オーナーにも家族があり、借金があり、眠れない夜があります。
小さな店で起きていることを、人手不足という言葉だけでは語りきれません。違う国で育った人同士が、常識の違いに戸惑い、衝突しながら、同じ店を動かしている。坂本さんとスタッフたちの関係には、これからの日本社会が向き合う課題と、ともに暮らしていく可能性の両方が見えるのです。
文/村尾信一 写真/Shutterstock













