モスクワ訪問の3つの狙い
これら三つの非公開文書が作成されたとされる日が、ラトクリフのモスクワ訪問と重なっている点は、はたして偶然なのか。中身が不明な以上、ラトクリフの警告を受けて署名されたのかどうかを確かめる手段もない。
独立系メディアの集計によれば、2025年に出されたプーチンの大統領令の半数近くが非公開であり、こうした事態は特別なことではない。
訪問への対抗措置、新たな動員、NATOに対する軍事計画、イラン支援といった要素と結びつける証拠は何もないが、憶測は広がっている。
ラトクリフのモスクワ訪問の背景には、三つの狙いがあったとされる。まずウクライナ和平である。ラトクリフは、トランプ米大統領、プーチン、ゼレンスキー・ウクライナ大統領による三者首脳会談を提案し、行き詰まった和平協議を再び動かそうとしたと伝えられている。
さらに、訪問に先立って米国がウクライナに対し、モスクワとサンクトペテルブルクへの攻撃を一時的に控えるよう求めたとの報道もあり、ウクライナ側は8月24日から26日まで攻撃を止めることに同意したという。
次にNATOへの警告がある。米情報機関は、ロシアがバルト三国などに対して限定的な軍事行動や破壊工作を仕掛け、NATOの反応を探る可能性を警戒していたとされる。
ラトクリフはロシア側に、エストニア、ラトビア、リトアニアといったNATO加盟国へ手を出すべきではないと警告したといわれる。
条件がさらに悪化する前に取引に応じよ
最後がイランだ。米国はイランとの戦争で軍事的にも政治的にも大きな負担を抱えており、米情報機関は、プーチンがその状況を「米国は消耗しきって欧州に介入できない」と受け止め、ウクライナやNATO方面での行動範囲を広げる恐れがあると分析していたという。
ラトクリフは、イランへの軍事・経済支援を減らすよう求めると同時に、米国が中東に気を取られているという“見込み違い”を起こさないよう警告した可能性がある。
結局のところ、そのメッセージは「米国がイランで手いっぱいだと考えるな。NATOを試すな。ウクライナ戦争を拡大するな。条件がさらに悪化する前に取引に応じよ」というものだった。
しかし、なぜCIA長官だったのか。
和平が目的なら、国務長官や大統領特使が派遣されても不思議ではない。それなのにCIA長官がロシアの外交官ではなく情報機関のトップと会談したのはなぜか。
一つの説明として、ラトクリフが政治的要求ではなく、機密情報に基づく警告を携えていたという見方がある。













